第14話 願うことは何
俺らは二人で賽銭箱の前に立ち、その中に適当な小銭を投げ入れた。
そういえば、投げた小銭にも何か意味とかあるのかな。
気になったので聞いてみることにした。
「若山。投げ入れる小銭って、何か違いとかあるのか?」
「ん?あるよ。穴の空いてるお賽銭が縁起が良いって言われてるね」
「へえ。じゃあ、五円玉投げときゃ良かったわ」
「私は五十円玉入れたよ。これでお願いを聞いてもらえること間違いなし!」
得意げに胸を張っている瑠実を微笑ましく思いながら、俺は静かに手を合わせる。
特にお願い事は無いので、ただ手を合わせているような状態だが。
数秒して手を合わせながら横を見ると、瑠実も手を合わせて目を閉じている。
静かな時間が十数秒続き、瑠実が目を開けた。
「長かったな」
「まあね〜」
上機嫌な瑠実を横目に、俺は静かに賽銭箱の前から離れる。
別にたくさん並んでいる訳じゃないが、早めに帰りたいって気持ちが大きかった。
瑠実も来たことで、俺らはもう一度母さんのところに戻ろうとするが、戻った先に待っていたのは美愛だけだった。
「あれ、美愛だけ?母さんたちは……?」
「お母さんたちはあっちの出店で適当に食べ物買ってる。お昼にちょうど良いでしょって」
「家でも昼飯食ったのに、まだ昼飯を食べるのか……。ブラックホールすぎる……」
これが豊満な体つきの秘訣……?
いや、絶対違うな……。
どうでも良いことを考えていると、美愛がベンチからスッと立ち上がる。
「それで、瑠実さんは何をお願いしてきたの?」
「え?私?」
急に話題を振られたことに瑠実は困惑している。
「そこは冴木……、お兄さんに聞くとかじゃないの?」
「束咲にぃってあんまり欲が無いからさ。毎年のお参りもお願いを全くしてないの」
「冴木……。いつかバチ当たるよ……」
「なんで結局俺に火種がつくんだよ……」
理不尽極まりないと思いながらも、事実なので何も言い返せない。
頭を抱えていると、瑠実は困惑した様子で口を開いた。
「その……、ちょっと耳を貸してもらえる?」
「え、いいけど……」
瑠実は遠慮しがちに美愛に耳打ちする。
その間、瑠実がずっとこっちを見ながらニヤニヤしていた。こっち見んな。
瑠実が口を離すと、美愛のニヤニヤは一層高まる
「へえ。まあ、叶うと良いね」
「あ、ありがと……。っていうか、ニヤニヤしないで!」
瑠実は顔を真っ赤にして美愛の頬をつねる。
美愛は痛そうに「ごめんって〜!」と謝っているが、反省してる声音じゃないんだよなあ。
「あら、私たちが少し離れているうちに面白いことになってるわね!」
「母さん……。これが面白いって見えるなら……ん?いや、面白いか」
「束咲……。とうとうお前まで菜奈に毒されたか」
「失礼だな!っていうか、父さんだって母さんに毒されてるだろ」
俺がそう言うと、父さんはそっぽを向く。
あ、しらばっくれるつもりだな。
そうこうしているうちに母さんも二人のじゃれ合いに混ざっており、瑠実の頬が母さんの手によって引っ張られる。
「あら、瑠実ちゃんのほっぺ柔らか〜い!」
母さんは驚きの表情で瑠実の頬をムニムニ触ってく。
瑠実は「や、やめて下さい〜!」と懇願しているが、母さんは嫌がられるほど燃えるタイプなんだ。諦めてくれ。
「……あ、そういえば瑠実のお願いって何だったんだ……?」
ふと気になったので美愛に聞いてみる。
だが、美愛はふふっと微笑して口元に人差し指を当てる。
「ナイショだよ」
「……このシーンだけ瑠実と変えてほしいわ」
「ちょっ!それどういう意味!?」
俺の一言で、その場はさらに修羅場と化した。
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