第13話 初詣。何も無いわけが無く

 家から車で30分程度。

 着いたのは少し大きな名のある神社。

 三ヶ日ということもあり、人がごった返しになっていた。

 どうしよう……。引きこもりとしてはもう帰りたいんだが……。


「冴木、帰ったら許さないから」

「心の中を読むのやめてもらえます!?」


 いつもは空気が読めないのに、どうでも良い時に限って鋭くなるのは良くないと思います!

 ちなみに、母さん達は別行動だ。

 なんか「お二人で楽しみなさいよ〜」とか言いながら人混みに突っ込んで行った。

 いや、余計なお世話だよ。

 とは言ったものの、人が多すぎるな。


「……若山。一つ提案があるんだが……」

「嫌な予感がするんだけど、一応聞くよ……。何?」

「もう帰らない?」

「帰ったら許さないって言われた矢先で!?」


 呆れ気味にこちらを見つめる瑠実。

 何だろ。「コイツ、ヤバ……」って感じの目つきで見るのをやめてもらって良いですか?


「はあ……。面倒くさいなあ……」

「アンタ、よく東京に住めてるね……」


 ため息を吐きながら俺の背中を押してくる。

 確かに東京中、これぐらいの人混みで溢れてるけど、外に出なければ良い話だ。

 だから背中を押すな。自分で歩けるから。押す……押すなっつってんだろ!

 少し不満げに瑠実を睨むと、瑠実は微笑を浮かべて背中を押すのを止める。


「そんなに背中を押されるのが嫌なの?」

「嫌というか、転ぶかもしれないだろ」

「そんなに冴木の身体は貧弱なの……?」


 瑠実は呆れてため息を溢すと、こちらに手を差し伸べる。


「……これは?」

「アンタ、これを女子に言わせる気?」

「エスコートは男性の役割ってか?残念だがどこの誰かさん曰く、俺は女性の扱いが雑らしいからな」

「アンタ……、初めて会った時のあの言葉、根に持ってるでしょ」


 瑠実は少し顔を赤くして、目を逸らした。


「……手、はぐれないように、繋いでよ……」


 とても恥ずかしそうにしている瑠実の姿はとても可愛らしく、思わず笑みが溢れてしまう。

 あまり過剰に笑わないように表情筋をコントロールしつつ、俺は瑠実の手を取った。


「喜んで。お嬢様」

「……アタシ、いつお嬢様になったの……」

「あと、ツンデレは流行らないぞ」

「つ、ツンデレじゃないし!」

「はいはい、分かった……って、痛い痛い!手を力一杯に握るな!」

「ツンデレじゃないから!」

「分かったから!」


 なんとも理不尽な態度でキレられる。

 げ、解せぬ……。


♢♢♢♢♢♢


 人混みを二人で掻き分け、何とか抜け出すと本殿へとたどり着く。

 ここまで本当に長かった……。

 特に瑠実の身バレが怖くて俺はずっとビクビクしてました。


「はあ、やっと着いた……。」


 瑠実も同じことを思っていたようで、自身のマスクを少しだけいじっている。


「お、遅かったな。二人とも」


 と、そこへ他3人が合流。

 口ぶりからすると、10分ぐらい待っててくれてたのだろう。


「そっちこそ、早すぎるだろ」

「そう?私が『すみませ〜ん』って言いながら進んでたら、勝手に道を開けてくれたわよ〜?」

「ついでに、ほとんどの男の目がお母さんの胸に釘つけだったけどね……」


 美愛はそう言って母さんと自分の胸を交互に見てため息を吐く。

 ……うん。いつか大きくなるよ……。……………た、多分。


「菜奈さんの胸……大きいよね……」


 瑠実は自分のプロポーションに自信を持っているからか、大してダメージは無く、こちらにそう耳打ちしてくる。


「ああ、母さんはああ見えて高校まではぺったんこだったんだ」

「え!?」


 瑠実は俺の言葉に驚いて、急に声を上げる。

 だが、瑠実はすぐにハッとして「ごめんなさい!」と頭を下げた。


「良いのよ〜。事実だしね〜」


 ふふふと穏やかに笑う我が母はこちらを見つめる。

 何というか「おめえ、私が天然なだけの母親だと思うなよ」って感じの目つきで、表面上は笑ってるんだけど、目は完全に笑ってない。

 学生時代のことを話されて、心底ご立腹のようです。

 けど母さんは怒っても全然怖く無いから、俺はなんともないように笑ってみせた。


「……で、二人はいつまで手を繋いでるの……」

「え……?」

「あっ……」


 ずっと繋いでたから馴染みすぎて気付かなかった。

 俺らはすぐに手を離し、その拍子に母さんが「あ〜、せっかくのラブラブシーンが……」とかほざいてくる。

 うるせえ。付き合ってないって言ってんだろ。

 あと、父さんはそのニヤニヤ面を止めろ。何も言ってこないのが一番イラつくんだよ。

 瑠実はというと、耳まで顔を真っ赤に染め、こちらと目を合わせないように向こうを向いている。


「そ、その……ゴメン」

「ん?別にいいぞ。むしろ謝る必要無いと思う」


 こちらは恋愛感情ゼロなため、ノーダメで素面である。

 それが気に入らないのか、瑠実は真っ赤な顔から一変して、顔を膨らませる。

 その表情はリスを連想させ、何とも可愛さに溢れていた。

 俺はその顔にイタズラ心が働き、人差し指で勢いよく瑠実の頬を押した。


「ぶっ……」

「ははは、『ぶっ』だって!はー、おもろい!」


 大爆笑して、父さんの方を見る。

 父さんは「もう付き合っちゃえよ」とか言いながら微笑んでいた。

 おい、ややこしくなりそうな言葉は謹んでもらおうか。


「ちょっと、冴木!急に乙女の顔を触った挙句、笑うってそれでも男か!」

「じゃあ、女子でいいよ」

「そういう話じゃなああああい!」


 俺らが言い争っていると、美愛が呆れてため息を吐いた。


「夫婦漫才はいいから、早くお参り行ってきてくれないかな……」

「「夫婦じゃない!」」

「はいはい。仲が良いことは分かったから、早めにお参り行ってきてね」


──────────

俺も美少女と手を繋ぎたああああああい!

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