第12話 アイドルと覚悟。そしてお着物タイム!

 家に着くと、邂逅1番に父に聞かれたことはこうだった。


束咲つかさ、お前……、彼女が出来たんだなー!」

「だからちげえっつうの!」


 父が急に号泣しだし、俺は思わず席から立ち上がる。

 この人が俺の父親である冴木智哉さえきともや

 男性にしては少々小柄であり、仕事は医師をしているというエリートっぷりだが、家ではあまり頼りにならないところが目立つ。


「……別に束咲にぃのカノジョでも良いでしょ。何を強がってんのやら……」

美愛みあ、俺は若山のことを思って……」

「まあまあ、落ち着いて?二人が喧嘩してるところなんて、私は見たくないな〜?」

「「……」」


 母さんが俺と美愛を宥めて、俺らは浮いた腰を再び下ろす。

 冴木美愛さえきみあ。俺の妹で、確か今は中学三年生。

 母さんの言いたい気持ちも分かる。

 美愛は受験で少しピリピリしてるから、少しは多めに見て欲しいのだろう。


「あ、ねえねえ冴木!ここに高級お煎餅があるよ!食べよー!」


 そして、さっきからキッチンでウロチョロしては空気を読まずに話しかけて来る馬鹿が一人。

 少し見れば険悪な雰囲気だって分かるのに……っ!何でコイツはいつも空気が読めねえんだよ!

 イライラしている気持ちを何とか心の中で止め、その反動でため息を吐いてしまう。


「若山。悪いんだけどさ全員分のお茶を用意してもらっても良いか?」

「ん?分かった」

「あ、じゃあ私も手伝うね」


 母さんはにこやかに席から立ち上がり、キッチンへと入っていった。

 こうして話し合いに参加しているのは俺と父さんと美愛となるが、実質俺と父さんの話し合いだろう。


「……で、束咲。説明してもらおうか」

「何で”結城瑠実”がここにいるのかだったな。分かったよ」


 そう。険悪な雰囲気になっていたのは、瑠実が俺の家族に身バレしてしまったことだ。

 俺も油断していた。瑠実がマスクもしていない状態で父さん達と出くわしてしまったのだから。

 今更隠し事も出来ないだろうと俺は覚悟を決め、父さん達に瑠実との出会いを洗いざらい話した。

 俺が話してる間、父さんは真剣な表情で、美愛は頬杖を突きながら退屈そうに聞いていた。


「……なるほど。大体は理解したよ」

「ありがとう。父さん」


 俺が感謝を述べると、父さんは首を横に振って「俺は何もしていないよ」と謙虚に笑った。


「……で、束咲にぃはこれからどうするつもりなの?」

「どうするって?」


 美愛の突然の質問に対してそう聞くと、美愛はわざとらしく大きなため息を吐く。


「あの”結城瑠実”が友達?束咲にぃは分かって無いようだから言っておくけど、彼女と一緒にいると危険が伴う。それを踏まえて彼女とどう向き合っていくのかって聞いてんの」


 イライラしてそうな口調で言ってくるが、美愛の表情は今にも泣き出しそうだった。

 俺が危ない状況下にあるから心配してくれているのだろう。

 俺は微笑して美愛の頭にポンと手を乗せる。


「大丈夫だ。美愛が心配しているようなことは絶対にしないから」

「答えになってない……」


 とうとう涙が頬を伝い始め、言葉も弱々しくなってきた。

 本気で心配してくれたんだなって、嬉しくなってしまう。

 俺はしばらく、可愛い妹の頭を撫で続けた。


♢♢♢♢♢♢


「ま、そう言うわけで初詣よー!」

「いや、おかしいだろ」


 つい先ほどまでの険悪な雰囲気から180°回転し、俺らは初詣に行くべく、準備をしていた。

 俺のツッコミに、母さんはコテンっと首を傾げる。


「ん?お菓子がどうしたって?」

「相変わらず天然で安心したよ……」


 思わずはあっとため息を吐く。

 今日、ため息多いなあ……。


「……それにしても、束咲は着物、着なくて良かったの?」


 母さんがそう聞いて来て、俺は小さく頷く。


「ああ。あんまり好きじゃないんだよな。着物」


 昔、着物を着て初詣に行った時、俺は顔が良いから逆ナンされまくりだった。

 あまりにされすぎてうんざりしてしまい、着物はそれ以降封印している。


「はは、あの頃が懐かしいな……」

「つ、束咲……?何か嫌なことでもあった?私、話聞くわよ?」

「いや、昔を思い出してただけだ。苦すぎる昔をな」

「やだ、束咲がキザなこと言い出した。壊れちゃった」

「壊れとらんわ!」


 俺はそう言ってコートのポケットに手を突っ込む。

 今、着物に着替えているのは瑠実と美愛。

 父さんは車を用意するために駐車場に行った。

 なので必然的に俺と母さんが余るわけなのだが、母さんが天然すぎて会話が成り立たん!

 さすがは近所のおしゃべりおばさん達を撲滅した生ける伝説なだけある。

 と、そんなことはさておき、着替えが始まってから40分が経過していた。

 俺は着替えている二人が居る部屋の扉を叩く。


「二人とも、あとどのくらいで終わる?」

『あ、冴木。ちょうど着替え終わったから開けて良いよ』


 扉越しにそう聞こえたので、扉を開ける。

 扉を開けて最初に目に入ったのは、瑠実の着物姿。

 青をベースとした花柄の着物に身を包んでいる彼女は、誰がどう見ても国民的アイドルの名に相応しい美しさだ。


「ど、どうかな……」


 瑠実が上目遣いで遠慮しがちな声音で聞いてきて、俺の頭の中は崩壊寸前だった。

 俺はアイドルの破壊力パねえと思いながらも口を開いた。


「その、すごく綺麗だ。似合ってる」

「そ、そう……?えへへ」


 少し素朴な感想だったかなと思ったが、瑠実の頬はこれ以上ないぐらいに緩んでいたので正解だったようだ。

 ホッと胸を撫で下ろしていると、隣から「もう付き合っちゃえよ」とか野次を飛ばしてくるバカ二人。


「ちなみに束咲にぃ。私は……?」

「ん?可愛いと思うぞ。似合ってる」


 美愛の着物は赤をベースにした菊の模様が特徴的なものだった。

 美愛の雰囲気に合っているからとても似合っているなと思ったが、美愛ははあっと呆れ気味にため息を吐く。


「束咲にぃ。イケメンの名が廃るぜ……?」

「お前誰だよ」


 急な男口調で意味わからんことを言ってくる美愛。

 もう話し掛けないでおこうかな。


「みんな、車の用意出来たよ」


 と、そうこうしているうちに出発の時間になったようだ。


「若山。マスク忘れんなよ」

「誰に言ってんの。国民的アイドルに物忘れは無いから」

「といっても、最近のお前はアイドルの威厳が全く見えないけどな」

「あれ」


 そんなバカなやりとりを交わし、俺ら全員は家を後にした。


──────────

初詣、良いですね。来年こそは行きたいと願う。

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