第11話 アイドルと家族
年が越してから2日が経ち、まだまだ年越しのほとぼりが冷めない中、俺は瑠実と共に時間を過ごしていた。
しかし共に時間を過ごすと言っても、二人それぞれのやりたいことをやるといった感じだ。
例えば俺はゲームをやっている。
そしてそんな俺の隣で、瑠実が鼻歌を歌いながら漫画を読み漁っていた。
前々から思っていたけど、コイツ暇なのか……?
「なあ、若山」
「ん〜?」
「お前って、俺が居ない時は何をしてんの?」
ちょっと気になって聞いてみたが、瑠実は漫画を読みながらしばらく悩む素振りを見せる。
まさかコイツ、ホントに暇なんじゃないだろうな……。
「そんなに考えることか?大学通ってるなら、課題とかあるだろ」
「あるっちゃあるんだけど、私は一瞬で終わらせちゃうから……」
「何その超人的な能力。欲しいんですけど」
「やろうと思えば誰でも出来るけど、内容は頭に入ってこないからオススメはしないかな〜」
そう言って瑠実は苦笑する。
コイツの場合は今までアイドルってことを免罪符にしてきたが、これからはそうもいかなくなるのか。
……って
「おい、質問に答えろよ」
「え?何だっけ?」
「3分前のやりとり忘れとる……」
瑠実の記憶力に頭を抱えてしまう。
「普段は何をしているんだって話だ」
「ああ、そうだった」
瑠実は「えっとね〜」と可愛らしく頬に指を置く。
「普段は外に出て、色んな店を食べ歩きしてるかな」
「へえ、意外だな。すっかり家に籠っているのかと」
「冴木の中の私って、どうなってるの……」
瑠実は呆れ気味にため息を吐いて頬杖をつく。
どうなってるって、アイドルとしての威厳が無くなってるニートっていう評価になってますね。
と、これは口が裂けても言えないな。
そう思いながら視線をゲーム画面の方へ戻すと、『YOUR LOSE』の文字が画面いっぱいに表示されていた。
俺がやっていたのは対戦形式のパズルゲーム。
どうやら会話中に負けていたらしい。
対戦中に別のことをする俺が悪いんだけどさ。
少しムッとなりながらゲーム機の電源を落として思い腰を上げる。
「あれ、どったの?」
「今日の昼飯、買いに行こうかなって。何が食いたい?」
「お、悪いねえ。じゃあ、お餅食べたい!」
無邪気に手を挙げて行ってくる瑠実を微笑ましく思いながら、俺は「あいよ」と一言だけ言ってコートを手に取り、部屋を後にした。
♢♢♢♢♢♢
餅が食べたいと言っていたので、近くのスーパーまでやって来た。
ここは品揃えも良いし、価格も比較的に安い。
使い勝手が良いから、昔から使っている。
「お餅〜。お餅はどこだ〜」
そう小さく口ずさみながら、適当に歩き回る。
お、あったあった。
入り口から少し奥の方に特売で安くなっている餅を見つけた俺は、その餅へと手を伸ばす。
それと同時に、俺とは違う誰かの手が同じ場所へ伸びていた。
「「え?」」
ふと横を見る。
普段、こういったことが起きたら「ごめんなさい」と先に取るよう促すが、今回の場合は別だった。
「母さん……?」
「束咲、久しぶりー!」
そう。我が母、
母さんはテンション高めに俺に抱きつく。
相変わらずハイテンションだな……。
母さんは結構若く見えるが、こう見えてもう40歳を過ぎている。
それも相まって、思春期男子からしたらかなりキツイ母親だ。
俺は自分より少し低い母さんの頭をそっと撫で、優しく突き放した。
もしかしたら父さんも居るかもと周りを見てみるも誰もいない。
「母さん、父さん達は……?」
「ん?お父さん達は先にアンタの家に行ったよ」
「あれ?父さん達って合鍵持ってたっけ……?」
「私の合鍵を渡してるから。けどアンタが買い物してるところで出くわすなんて、すれ違ったのかな……」
「多分な」
俺は取ろうとしていた餅を手に取り、自分の籠に入れる。
あと他にも特売になっている商品を何点か買っていくつもりだ。
「確か、鶏肉が特売になってたはず……」
「あ、じゃあ私も行こっと!」
そう言って母さんも俺の後ろについて来る。
何と言うか、これじゃあ俺が親みたいな気分だな。
少し不思議な気分に駆られて、ちょっとだけ笑ってしまった。
♢♢♢♢♢♢
「お会計、2095円になります」
「あら、結構安いのね。お得〜!」
「ふふっ、ありがとうございます」
「母さん、良いから早く済ませてくれ」
俺がそう言うと「ごめんごめん」と軽く流してお金を払う。
こっちは家で瑠実が待ってるんだ。
そんな時間は掛けられない。
……ん?
「母さん、家には父さんと
「え、うん。多分今頃家でのんびりしてる頃じゃない?」
うわー、やってしまった……!
帰ったら地獄確定じゃん……。
俺はその場で頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「お客様、お会計はお早めに済ませて下さい」
「あ、はい。スミマセン」
店員さんに怒られてしまったのでとりあえずパッパと会計を済ませる。
そして、カゴを受け取ってサッカー台(※スーパーのレジ済ませた後に荷を詰める台のアレ)へと移動して、再び頭を抱えた。
やばいやばいやばいやばいやばい。
そもそも来るなら来るでちゃんと連絡……はしねえな。
母親が大雑把な性格な時点で連絡はしてこねえな。
「束咲?どうしたの?頭がおかしくなった?」
いや、頭はおかしくはなってねえよ。
状況がおかしなことになってるからこうしてんだよ。
少しイラッとしながらも深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
グダグダ悩んでいてもしゃあないし、一旦帰るしかない。
俺は買った商品をエコバッグに入れ、母さんの荷造りが終わるのを待つ。
その最中、瑠実から何件かラインが来ていたが、『何とか耐えててくれ』とだけ送っておいた。
──────────
みなさんは綺麗なお母さんは好きですか?
好きならぜひ作品のフォローと下の星評価をお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます