第10話 幼馴染VS国民的アイドル

「手を出すなって、お前にしては珍しいことを言うな」


 悠輝は声量を控えてそう尋ねる。


「もしかして今来てる子って、お前の好きな子……?」

「……ちげえよ」


 悠輝の問いに対して、随分と弱々しく答えてしまった。

 この回答には悠輝はニヤニヤしっぱなしである。


「何だあ?そんな強がんなって。恋愛は隠すほど泥沼になるんだからよ」

「別に強がってねえよ。ただ……」

「ただ……?」


 悠輝が首を傾げる。


「ただ、これが恋愛感情なのかどうかわからないだけだ」


 俺のその言葉に悠輝は「ああ〜」と額に手を当てる。


「そういえば、お前は初恋がまだだったな。そりゃ恋愛感情が分からないっていうのも納得だ」

「ああ、悪いな」


 少し申し訳なくなって謝ると、悠輝は首を横に振る。


「いや、大丈夫だ。もしかしたらお前の初恋になるかもしれねえ。見守らせてくれや」


 と、悠輝はリビングへと歩いて行った。


──2分後──


「ははは!いやー、面白いこと言うね!若山さんは!まさか自分のほうが束咲を理解しているってほざくなんて!」

「ふふっ。ほざいてなんてないよー!私は本気で原宮くんよりも冴木のことをわかってるつもりだから」


 なんか、睨み合ってるんですが……。

 どうしてこうなった……。

 最初は……っ、最初は良かったんだ……!

 普通に二人とも自己紹介して、それでいて仲良く出来そうな雰囲気だったんだ。

 それが、「悠輝は俺の幼馴染なんだ」と言ったところから急に、悠輝がマウントを取り始めて、それに瑠実が乗ってしまって……。

 俺が頭を抱えている間にも、彼らの口論は止まらなかった。


「そもそも!俺は束咲と13年も一緒に居て、クラスもずっと同じだ!俺以上に束咲を知っているヤツなんか、この世には束咲の家族ぐらいだ!」

「へえ……。でも原宮くんは見たことはあるのかなぁ!?冴木の照れ顔をぉ!」


 瑠実が取り出しましたのはスマホ。

 その画面に表示されておりますは、カラオケに一緒に行った時に、瑠実に揶揄からかわれた時の写真ですね。

 これには悠輝もこの苦しい表情!

 実況・解説は私、冴木束咲がお送りさせて頂きます。


「だ、だが!お前は見たことが無いだろう!束咲の体育着姿をよお!」


 おっと、ここで悠輝選手もスマホを取り出し、体育祭の時の俺とのツーショット写真を瑠実選手に見せる!

 俺のプライベートは一体どこに行ってしまったのでしょうか!


「ふふふっ!そんなもので私が屈するとでも……?」

「な、に……?」


 おっと瑠実選手、余裕の表情だ!

 これは何か持っているのか!?


「見よ!冴木の寝顔写真!」

「……それなら俺も持ってるぞ」

「あれ……」


 なな、なんと!瑠実選手の切り札に悠輝選手、びくともしない!

 さらには修学旅行の時に勝手に撮られた、俺の寝顔写真を提示するー!

 これには瑠実選手、厳しい表情!


「トドメだ!」


 おっと悠輝選手!畳み掛ける気だ!

 一体、一体何を出してくるー!?


「見ろ!これが、修学旅行時に撮った、束咲の入浴動画だああああ!」

「うわああああああ!」


 おっと瑠実選手!ここでノックダウン!

 勝者は、悠輝選手だー!

 ここで悠輝、勝利のガッツポーズ!


「……さて」


 俺はソファから静かに立ち上がる。


「二人とも、スマホの写真フォルダを見せてもらおうか」


「「あれ……」」


♢♢♢♢♢♢


 あの後、二人に写真フォルダを見せてもらい、アウトだと思った写真は速攻で削除した。

 二人とも涙目になっていたが、肖像権って知ってる?


「うう……、俺の……俺の束咲コレクションが……」

「やめろ!気持ち悪い!」


 悠輝の言葉に思わず寒気がほとばしった。

 男が俺の写真を集めてるなんて怖くて仕方がねえよ。女の子もだけど。


「あ、もうすぐ年が越すよ」

「え、マジで!?」

「立ち直り早えな」


 ふと時計を見ると0時目前。

 まもなく年越しだった。


「どうする?ジャンプする?」

「よし、しよう!年を越した瞬間、俺らは地球上には居なかった……!」

「やめろ。ここはマンション9階だぞ」


 俺の注意に「ちぇっ」とこちらを睨みつける二人。

 息ぴったりだな。


「じゃあ、せめてカウントダウンはしようよ」


 瑠実はマスク上でも分かるぐらいに期待の表情を向けてくる。

 そんな顔されたらさすがに断れない。

 こくりと頷くと、瑠実はパアッと顔を綻ばせた。


「分かりやすいな」

「ん?ああ、表情で出やすいからな、コイツは」

「そうじゃなくて……いや、これを言うのは野暮か」

「何が?」

「いや、何でもねえ。ほら、あと30秒」


 悠輝は時計を指差してニヤニヤする。

 なんとも気に食わない奴ではあるが、瑠実が表情を輝かせているので何も言わないでおく。

 そしてあと10秒になったあたりで、カウントダウンを始めた。


「「「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……」」」


「……0!」


 0になるのと同時に、パアンと大きな音が鳴り響く。


「ハッピーニューイヤー!」


 天真爛漫な表情で瑠実は、笑顔でクラッカーを手に持っていた。

 近所迷惑を考えない奴め。


「若山、あのなあ」

「おっ、良いの持ってんじゃん!いいなあ」

「おい、悠輝!」


 流石に注意しようと思ったが、悠輝も混ざり始める。


「あ、まだまだあるよ!」

「なら俺にもくれよ。全部鳴らしてやる」

「えー、流石に一人は良くないよ」

「おい、二人とも!」

「「……ん?」」


 二人はこちらに楽しそうな表情でこちらを向く。

 近所迷惑だからやめろと注意しようとしたが、その楽しそうな表情を見ると、その気も失せてくる。

 俺は肩を落として笑いかけ──。


「──あけましておめでとう。二人とも」


 俺がそう言うと、二人はより表情を明るくさせ、子供のように目を輝かせた。


「あけましておめでとう、束咲」

「うん、あけましておめでとうだよ。冴木」


 その夜、俺らは3人で、朝になるまで騒ぎまくった。


──────────

3人ともあけましておめでとう!(俺らにとってはまだまだ早い)

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