第9話 アイツには手を出すな
「はい、お茶」
「いやー、悪いねー」
瑠実はそう言ってニヤニヤしながら俺を見つめてきた。
「何だよ……」
「今日は随分素直なんだなって」
「これが素直に見えるお前の目はどうかしてると思うぞ……」
俺は呆れながらアメが食べた後の皿を片付け始める。
ちなみに瑠実には今、外同様にマスクとメガネをしてもらっている。
買い物に行って居ないけど、後に悠輝が来るからな。
身バレ防止は避けるべきだ。
瑠実も俺の友人が来ているというのは家に入った瞬間に理解したそう。
アイドルの観察眼、恐るべし。
「ねー、冴木のお友達って、どんな子ー?」
「どんな子って言われても、悪いやつじゃないってしか言えないな」
「何、その個性の無いような言い様は」
「実際、個性がねえからな」
学校では俺の友達っていうの以外は何の個性も無いと言われてるし、後輩からは「冴木先輩がかわいそう……」とか言われてた。
俺はなんのダメージも無いが、悠輝のメンタルにはクリティカルヒット。
悠輝はもはや、俺とセットだと思っている。
少し遠い目をしていると、インターホンが鳴る。
インターホンモニターを覗くと、ちょうど悠輝が映っていた。
「おう、買ってきたんだな」
『ああ、開けてくれ』
「嫌だと言ったら?」
『ここで大暴れしてお前の名前を出す』
「本当にやりそうなのがお前の怖いところだよ……」
静かにため息を吐きながら解錠のボタンを押す。
『お、サンキュー』
そこで通話は終了した。
俺は瑠実の方を見る。
「……という訳で、若山。くれぐれも気を付けろよ」
「分かってるって。任せときなさい!」
そう言って瑠実は可愛らしくウインクする。
こういう時だけは美少女なんだよなと思いつつ、味噌汁を作っていた鍋の火を止めた。
「そういえば話は変わるんだけどさ」
「ん?」
瑠実が疑問の表情を向けてくる。
「冴木の家って広いよね。お金持ちなの?」
「ああ、まあ、一人暮らしにしては広いな」
この家の間取りは3LDK。
マンションではかなりの広さにあたり、一人ではお釣りが来るほどだ。
「もともとこの部屋は家族全員で使ってたんだけど、いろいろあって今は俺一人で使ってる」
「え……、あ、ゴメン……」
瑠実はそう言って目を伏せる。
何か勘違いをしているな。
「違う違う。俺の家族は全員生きてる。急な引越しに俺が追いつけなくて、ここに一人で残っただけだ」
過去に父さんの転勤が決まって、それで引越す必要があったんだが、俺は高校入学直前だったから引越すに出来ずに一人で残ったんだよな。
俺の言葉に安堵したのか、瑠実はホッと息を吐く。
「良かった。冴木の家族が居ないってなったら、私も悲しかったもん」
「そっか。ありがとな。俺の家族の心配してくれて」
そっと微笑すると、瑠実は一気に顔を赤くする。
「ち、違うから!冴木の心配をしてたんじゃなくて、家族が居ないのは誰もが悲しいっていう当たり前の感性が働いたというか、そもそも私が冴木の心配するなんて筋違いだし?そういうのはカノジョとかそういう包容力のある人のやることですし?私なんかじゃとてもとても……」
「お、落ち着け!早口過ぎて何言ってるか分かんねえけど、自身が虚しくなるようなことを言ってはいるぞ!」
俺が瑠実を宥めていると、玄関の方から「ただいま〜」と悠輝の声が聞こえてくる。
俺はヤバいと思って反射的に玄関の方へ走る。
そこにはちょうど靴を脱いでいる悠輝がいた。
「お、おかえり……」
「お、おう。お前が出迎えるなんて珍しいな……。何かあったのか」
「何かあったっていうか何というか……」
このまま行かせたら、絶対に悠輝に瑠実のことで
けど、今更瑠実を隠すわけにもいかない。ならば──。
俺は意を決して口を開く。
「悠輝。ここから先にいるのは俺のカノジョではない。いいな」
「え?お前、女呼んだの?」
「呼んだっていうより、勝手に来た」
「ほーん。揶揄われるのが嫌だから先手を打とうとしてるな?」
「そうだ。悪いか」
「潔いな。ま、分かったよ」
悠輝はそのままリビングへと足を進める。
俺はその足を踏んでやるのだが。
「いってえな!何すんだよ!?」
「あと二つ警告があった」
「ああ、警告だあ?」
俺はこくりと頷く。
「一つ。そいつのことは絶対に素顔を見るな」
「怖っ。何それ、呪われんの?」
「ちげえよ。単純にそいつは……その……えっと……そう!顔がコンプレックスらし……い?」
「何で疑問形なんだよ……。ま、分かった。で、もう一つは?」
悠輝の問いに、俺はあいつに聞こえないように加減した声で答える。
「もう一つは、アイツには手を出すな」
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