第32話
広いリビングだ。
白を基調にした対面のキッチンからはリビングを見渡せる。料理をしながら話す事も出来た。其処から寝室へと続いている。祐希は、リビングのフローリングの床にある薄いピンクのソファに座っていた。島根にいる時には、市営団地の6畳の部屋が愛奈の部屋だった。でも今の愛奈の立場はその頃とは全く違う。今の愛奈は芸能人でしかも超人気スターだ。
まもなく電子カードのロックが外されて愛奈が帰って来た。
「祐希……!」
間違いなく愛奈だ。
「逢いたかった!」
167cmの愛奈がいきなり祐希に抱きついて来た。
「愛奈……!」
祐希は158cmで愛奈よりも背が低い。その小さな身体で力一杯抱きしめた。
「おかえり」
「祐希、私が東京に行くって言っても引き留めてくれなかったし、もう私から気持ち離れたのかなってずっと不安だった……」
愛奈は涙ぐんでいる。
「お前こそどんどんスターになって行ってるじゃん。それに……矢崎将真と付き合ってるって聞いたし」
祐希の声が段々と沈んで行く。
「将ちゃんはクラスメートで友達よ!祐希とは全然違う!祐希までそんな風に思ってたの⁉︎」
「愛奈」
「ファンが好き勝手言っても、祐希だけは信じてくれてるって思ってたのに……」
とうとう愛奈は祐希にしがみついて泣き出した。
「私が好きなのは祐希だけよ!他の人なんか関係ない!」
「愛奈……」
「気持ちは変わらないって……あの言葉は嘘だったの⁉︎」
「嘘の訳ないだろ!俺が好きなのは愛奈だけだ!」
愛奈はそのまま祐希の唇に夢中で自分の唇を押し当てていた。
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