第29話

「ねーねー。あれって碓氷愛奈だよね!隣にいる男子誰?まさか彼氏とか⁉︎」

翌日のまだ朝の6時30分だと言うのに、既に駅の構内は騒ついている。早速SNSにアップする女子もいた。

「でも愛奈って矢崎将真と付き合ってるんじゃなかった⁉︎」

その時愛奈の隣にいたのは兄の直哉であるが、ファンにはそれは分からない。しかも直哉は結構イケメンだから余計だ。

「お前も大変だな。愛奈」

「ゴメンね。お兄ちゃん」

このまま、祐希に会えずじまいで東京戻るのかな……

愛奈はスマホを手に取った。

祐希、まだ寝てるかな。

2度呼び出し音がして、祐希の声が聞こえて来る。

「おはよう。私、愛奈。今日東京戻るから。その前に祐希の声が聞きたくて」

『もう行くのか?まだ2日なのに』

祐希は仰天している。

「うん。明日から仕事入ってるから」

『そうか。頑張れよ。愛奈』

「うん」

それだけ?

祐希、引き留めてくれないの?

分かってるよ。引き留められても東京に戻らないといけない事ぐらい。でももう少しぐらい一緒にいようって言ってくれないの?

……こんな切ない気持ちはもしかして私だけ?

「祐希、好きだよ……」

愛奈の瞳から涙が零れ落ちる。

「俺も好きだよ。愛奈」

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