第10話 特産品

 ギルドの闘技場で、俺とナギは大勢の冒険者に囲まれながら、対峙していた。


 まわりから、冒険者の話し声が聞こえてくる。


「領主様と対峙しているナギ様って、聖人なんだろ。流石の領主様でも無理じゃないかな」

「ああ。リディア様には勝てても、流石に聖人様に勝てる訳がない」



 ナギが剣を抜いた。俺は魔法発動のために、身構える。


 そしてすぐナギは、俺に剣を振りかざす。ものすごい速さだ。流石は聖人、相当な技量である。


 しかし、負けてはいられない。

 俺はあえて回避せずに、【ロウファイア】で迎え撃った。


 しかし、剣で炎が切り裂かれる。


 どうやら、ナギは俺の術中にハマったようだ。



【アイシクル・バラージ】



 俺は戦闘用に即興であみ出した魔法を、ナギが炎を切り裂いている隙に使用した。


 ものすごい数の氷の刃が、一斉にナギに襲いかかる。


 その刃は、ナギの胸の辺りを切り裂いた。



 周りの冒険者たちが、どよめく。


「あの、凄まじい魔法は何だったんだ?!」

「領主様って、一体何者なんだ?!頭が追いつかねぇー!」


 そして、ナギも音を上げた。


「いてーよ!」


「大丈夫か?」


「全然大丈夫じゃねーよ!……でも、今回はおれの完敗だ。アルティ、お前手加減してただろ」


「え?いや、そんなつもりは……」


「バレバレだっつーの!炎を切った時の感触でわかったよ。アルティが手加減していることが」


「そうか……まあ、ナギに怪我させたくないからな」


 ナギは顔を赤らめた。


「優しいな、アルティは…………」


「いや、当然のことだ。胸のけがを見せてくれ」


「ああ、わかった」


 ナギの胸の辺りには、俺が負わせた大きい切り傷ができていた。


「傷が大きいな。しかし、女の子に直接触れるのはなぁ………」


「アルティ、余計な気遣いはしないでくれよ。友達なんだからさ!」


 俺はナギの胸に直接手を触れ、回復魔法をかけた。


「ありがとよ!」


「礼は要らない、当然の事だ」


 するとナギが突然、ぎゅうっと抱きついてきた。


「本当にありがと。あと男装した理由、実は…………無い。おれの趣味だ。しかし、アルティほど強いと神竜に狙われるかもな…………あ、いや、何でもない」


 そう言って、ナギは闘技場を去っていった。


 確かに、男装している理由があったら逆に怖いかも。


 戦いは好きではないが、ナギと戦えた事は良かったかも知れない。



 ♢



「はぁ、すごい数の手紙だな。これ、どうするんだ…………」


 決闘の翌日、俺は届いた手紙の数を見て、ため息をついていた。


 内容を見た感じ、ほとんどがオルマンの貴族たちから届いた”自分の娘と婚約してくれ”という手紙である。


 こんな見どころの無い男と婚約する女なんていないと思うので、ほとんどが貴族たちによる嫌がらせだろう。


 すると、その中から一際豪華な装飾の手紙を見つけた。


「こ、これは王女アンジェラからだ!」


 内容は…………何だこれって感じだ。


「”アルティ様の事を考えるとおかしくなりそうです”とか書いてるけど、こんなん書いてる時点で既におかしいぞ」


 俺は大量の手紙を棚にしまい、次の事をすべくギルドへ向かった。



 ♢



「よし!これで王都に送る分は揃ったな」


 俺はギルドで、この街の特産品の品々を王都へ送る準備をしていた。


 特産品の1つ目は、スペシャルボアの肉だ。

 口の中でとろけるような食感の肉で、とにかくうまい。


 特産品の2つ目は、ギガントグリズリーの毛布だ。

 Sランクモンスター”ギガントグリズリー”から採れた皮でつくった毛布は、肌触りが良い。


 特産品の3つ目は、エクスポーションだ。

 昨日思いついたばかりで、街の近くの森で採れた良質の薬草から、獲得したばかりのスキル【錬金術】で限界まで成分を取り出したものだ。


「ここまで早く、特産品が揃ったのも冒険者の君たちのおかげだ。礼を言う」


「こちらこそ、アルティ様から最高の待遇をいただき、嬉しい限りです!」

「そうですよ!アルティ様がいなければ、オレたちは今頃、貴族の奴隷でした…………」


 冒険者たちは感謝を述べてくれるが、俺は当然の事をしただけだ。


「では、君は俺の使者として、これを王都へと運んでくれ」


「承知いたしました!」


 俺は、使いの者を送り出した。


 すると、焦った様子の村長が俺の元に向かってきた。


「アルティ様!大変です!我がステリンに移民どもが押し寄せてきました!!!」


「何故だ?とりあえず、今から向かう」


「お時間頂いて、ありがとうございます!」


 俺は移民が群がっているという、街の入口に来た。


 移民はざっと500人はいそうだ。移民達は全員痩せ細っている上に服もボロボロの酷い有様だった。


「あなた達はなぜ、ステリンに移住したいと思ったのだ?」


 そう尋ねると、初老の男が話し出した。


「私たちはここの近くの集落に住んでいたのですが、突然、謎の動く鉄のカタマリに襲われ、集落を壊されて逃げ出してきたのです…………」


「それは災難だったな……俺はここの領主、アルティだ。あなた達を移民として認めよう。しかし、働いてくれるならね」


「は、はい!ありがとうございます!!!私たち一同、アルティ様に生涯を捧げることを誓います!!!」


「いや、そこまでは…………とりあえず、温泉に入ってもらおう。村長、案内してくれ」


「はい、分かりました。では、あなた達を温泉に案内します」


 すると、移民達は困惑したような表情を浮かべる。


「すみませんアルティ様、温泉とは一体何なのでしょうか?」


 確かに分からないのも無理はない。

 俺は温泉がどういうものかを、ざっと説明した。


「温泉……なんか凄そうですね!」


 温泉の良さが伝わったようで良かった。


「ん?この光ってるのは?!」


 移民の一人が魔力灯を見て尋ねてきたので、構造を説明した。

 すると、その移民が驚きの声を上げた。


「凄い!凄まじい技術ですね……その技術を利用すれば、世界の情勢が完全に一変するかも…………」


「いや、そんな事はないだろう」


 そう否定すると、移民の中から頭の良さそうな少女が出てきて話し出す。


「アルティ様は謙遜しすぎですね。この技術を利用すれば、間違いなく産業に革命が起きるでしょう。なので、ぜひ利用して欲しいです!」


「まあ、考えるよ。ただ、騒ぎにはしたくないな。俺はここで静かに暮らしたいからね」


 そう言った後、移民達は温泉に向かった。



 ♢



「もう、最高過ぎます!温泉も料理も、何もかもが!」

「この街、エグすぎる!もはやこの世の楽園だ!」


 温泉に入った後に旅館の料理を食べた移民達は、なぜか無茶苦茶はしゃいでいる。

 まあ、元気になって良かったけど。


 すると、さっきの賢そうな少女が目を輝かせながら話しかけてきた。


「アルティ様、凄過ぎます!このレベルのサービスの存在が広まったら、各国要人がこぞってこの街に移住するでしょう!」


「いや、さっきから大げさすぎるよ。この程度、他の国に行けば当たり前だろう」


「いやいや、そんな事無いですって!」


 そう言っている少女だが、この街ごときに各国要人が詰め寄るなんてあり得ないので、放っておいて移民達を次の場所に連れて行く事にした。


 そしてしばらく歩き、目的地に着いた。


「ここが今日からあなた達が住む場所だ」


 その場所とは、中世ヨーロッパ風の7階建ての集合住宅が集まった住居区画である。


 ここにある建物は全て強度を極限にまで高めた魔力レンガ製で、建物自体はこの世界ではかなり高めだが、崩れる心配はないだろう。


 移民用にあらかじめ建てられたものである。


「わぁ!こんなに素敵な建物、見た事ないわ!」

「凄いな!でも値段が張りそうだ……やっぱ住めないや……」

「こんな凄いもの、買えねーよ。小屋でもつくるか……」


 なぜが移民達が帰ろうとしているのだが…………


 俺はすぐさま引き留める。


「何で帰ろうとしてるんだ?今日からここに住むんだぞ?」


「いや……アルティ様、ここは確かに凄いですが、ここまでの家を買うお金は我々には無くて…………申し訳ありません!」


「は?何を言ってるんだ?タダに決まってるのだが……」


「え?……タダ?!ほ、本当ですか?!!!」


「当たり前だ。その代わり働けと約束したじゃないか……ん?どうしたんだ……」


 なぜか移民達が全員、俺に向かってひれ伏してきた。


「ア、アルティ様ぁー!!!わ、私、アルティ様に感服のあまり、言葉が見つかりませんぞ!!!」

「アルティ様は、もしや言い伝えられし救世主様では?!」

「そうだ!きっとそうに違いない!アルティ様は救世主様だ!!!」


「「「救世主様、万歳!!!」」」


 うーん、村人達もそうだったが、何故急にこうなるんだ……

 俺がした事は、至極当たり前の事だと思うが……


 まあ、こういう時は放っとくに限る。


 俺はどうしても気になることがあったので、自分の邸宅に帰る事にした。



 移民達が言っていた、”謎の動く鉄の塊”…………


 早く処理しないと、ここにも来るかも…………
















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