第9話 弟へ、ざまぁ!
「おお!まさに俺の書いた通りの素晴らしい温泉じゃないか!」
目の前にある温泉は、日本の和風の温泉をイメージして書いた設計図の通りになっていた。
「落ち着いた雰囲気があって素晴らしい。流石アルティ様。温泉というものに初めて入るので、楽しみです」
どうやらリディアも、自然と機嫌が直ったようで良かった。
「さて、入るとしよう」
「あ、お先に入っとくぜー!」
ナギが慌てた様子で真っ先に温泉の建物内に入った。
「あいつ、一体どうしたんだ?」
「なんか怪しいー。何かを隠してるんじゃ無いかなぁ」
ナギを除く4人は、ナギを怪しみながら、温泉の建物へと入った。
「わ!素晴らしいですね」
「そうだな。なかなか内装も立派だ」
この温泉には旅館と、スペシャルボア料理を出す高級料亭が併設されており、今後のステリンの一大観光地になるだろう。
すると、レインが無邪気に話しかけてきた。
「あのーアルティ様、温泉ってなんですか?」
「温泉に入ったらね、体をお湯に浸かる事で気持ちをリラックスさせる事が出来るんだよ」
「なんか、凄そうですね!」
さて、もちろん温泉は当然、男湯と女湯に分かれている。
女湯に入りたい?!いや、とんでもない!
「あのぅー、わたしアルティ様が居ないと不安です!一緒に入ってくれませんか?」
無邪気な顔で訪ねてきやがって……
レインには申し訳ないが、答えはNOである。当然だ。
「レインは女湯に入りなさい。俺は男湯に入らないとダメなんで……」
「そうだよ!レインちゃん!あたしと一緒に入ろ?ね!」
エリカの説得のおかげで、なんとかレインを女湯に入らせる事に成功した。
リディアの方も一緒に入りたがっていたが、こちらも仕方なく女湯に入って行った。
さて、変な気持ちを抑え、俺は大人しく男湯に入る事にしよう。
♢
(やべー!絶対バレるじゃん!おれの”秘密”が!)
ナギは今、ものすごく慌てている。
何故なら、まだ誰にも言っていない、絶対にバレたくない”秘密”がバレるピンチに陥っていたからだ。
(とりあえず、温泉へはとっとと入って、アルティが入る前に出よう!)
ナギは女湯へ入ろうとした。
しかし…………
「坊や、なんで女湯へ入ろうとしてるんだ?坊やは男の子だろう。男湯へ入りなさい」
受付のおじさんに引き止められてしまった。
(マジかよ!でも、女だと言っても信じてくれなそうだな……仕方ねえ)
ナギは男湯の方へと入った。
そして、脱衣所でナギはおっ⚪︎いを押さえつけている板を外し、人生初の温泉に入った。
すぐに出るつもりだった。
しかし――――――――――
温泉の、あまりの心地良さにナギは心を奪われ、時間を忘れてしまう。
(サイコーすぎる!アルティこれ考えたの天才かよ!)
ナギは温泉に入ったせいで、すっかり脳が溶けていた。
アルティ来るなと願いながら、なかなか出ずに入り続けてしまっていたのだ。
しかし、その願いも虚しく、ついにアルティが入ってきた。
「お、ナギじゃん。さっきはどうして慌てて…………え?!」
(オワタ)
♢
俺は服を脱いだ後、男湯の扉を開けた。
すると、ナギが居たのだが…………
「お、ナギじゃん。さっきはどうして慌てて…………え?!」
ナギにおっ⚪︎いがついてる?!
もしかして、あんまり信じたく無いけど、ナギって女だったのか…………?!
俺は慌てて、ナギの裸体から目をそむける。
「……ごめん、驚かせちゃったな……」
「いや、俺が今まで気づかなくて悪かった。とりあえず、服を着てくれないか?」
「あ、分かった!すぐ出る!」
ナギが浴場から出て行ったので、俺は久しぶりの温泉を堪能する事にした。
しかし、なんか気まずいな……
15分後______
温泉から出た俺は、ナギが男湯に入った経緯を聞き出した上で、受付のおじさんを厳重注意した。
受付のおじさんは、ナギが女だと俺に言われて、大変驚いていたが、すぐにナギに謝ってくれた。
♢
「アルティ様の考えた温泉、本当に素晴らしかった。ここまでのものを考えつくなんて、アルティ様はやはり天才ですね」
「本当にすごいよこれは!絶対に流行る!あたし、もう一回入りたくなっちゃった」
エリカとリディアは温泉のことを絶賛している。レインも気持ち良さげな表情だ。
「それは良かった。ところで、ナギの事について話があるんだが」
「何の話?ナギがなんかあったの?」
俺はナギのことを指差して話す。
「実はコイツ、女だったんだ」
「ええ?!!!そうは見えないよ!あたしも男の子かと思ってた!」
「私も気づきませんでした。アルティ様の婚約者として、失格……」
いや、リディアと婚約した覚えはないんだが……
「おれが女だと気づかないのは、仕方ねーよ。ずっと秘密にしてたし……でもこれには理由があってだな……」
ナギは、そう言い終わると、剣に手をかけた。
「アルティ、決闘してみないか?もしアルティが勝ったら、理由を教えてやるよ!」
「いやいや、決闘なんてわざわざしなくても良いのに面倒い」
「じゃあ、決闘で決まりだな!」
「なんで勝手に決まってんだ?俺は決闘するなんて一言も…………」
そんな事を話していると、急に謎の人影が馬に乗って近づいてきた。
あれは…………まさか…………
「見つけたぞ、クズ兄貴!お前には、死んでもらう!」
どうやら人影の正体はハーマンのようだ。
あの時に、「ホームレスがお似合い」などと言って追放された恨みを俺は忘れてない。
そして俺がハーマンに対峙しようとすると、リディアが先に俺の前に出てきて、ハーマンに【スペースフローズン】を撃った。
しかし、その【スペースフローズン】はハーマンの剣術によって防がれてしまった。
「リディア、コイツは俺がこの手で倒したい」
「ですが、この男はアルティ様を侮辱しました。私が徹底的に潰さないと……」
「いや、コイツは絶対に俺が潰す」
「は、はい、分かりました」
俺はハーマンに対峙した。
「クズ兄貴、お前ごときがオレに歯向かうって……」
「歯向かって何が悪いんだ?」
「やれやれ、兄貴とオレじゃ、圧倒的に差があるって事が分かんないぐらい馬鹿なのかなぁ……素直に首切られれば良いのに……」
「ああ、圧倒的な差だ。で、何しに来た?」
「何回言わせるんだ!クズ兄貴を殺しにきたんだよぉ!!!」
ハーマンは俺の挑発にマンマと乗り、顔を真っ赤にして襲いかかってきた。
どうやら馬鹿はハーマンの方かもしれない。
俺は、なるべく手加減して【ロウファイア】をハーマンに放つ。
しかし、間違えて地面に当ててしまった。
地面に当たった瞬間、地面が勢いよく爆ぜて、ものすごい炎の竜巻が起こった。
「まずい!街に燃え広がる前に消さないと!」
俺は慌てて炎の竜巻に【スペースフローズン】を当てて、何とか消し止めれた。
しかし、手加減したつもりなのに、魔法の威力は前より強くなっている。
潜在スキル【主神の使徒】の効果がイマイチ分かっていないが、おそらくこのスキルによって、現在進行形で成長しているからだろう。
「ふぅ……何とか消し止めたが、ハーマン?どうしたんだ、こんな惨めな姿を晒して」
ハーマンは恐怖のせいなのか、子供のようにヒクヒクと泣いていた。
やれやれ、良い大人の男がこれとは、情けないなぁ。
「あ、兄貴様っ……ゆ、ゆるじてくだしゃい……」
「は?今更、もう遅い!」
「ヒィ!」
俺は、新しく習得した風系上級魔法【ヘルストーム】でトドメをさした。
「アルティの事を舐めまくってたクセに、全然大した事ない野郎だったぜ!」
「そうですね、アルティ様を前にして敵う奴などいないのに…………大変愚かな男でした」
「ところでアルティ、決闘の話、忘れてないよな?」
「だから決闘するなんて言ってないって…………」
「頼む!アルティと戦わないと、色々まずいんだ!」
ナギは急に態度を変えてきた。そういえばナギは聖人だ。バーンズの指示でここに来たとか言っていたし、もしかして俺の強さとかを知らないとマズいとかか?
「仕方ないな。戦ってやるよ」
「やった!ありがとな!」
俺は裏の事情を察知して仕方なく、ギルドに併設された闘技場に向かったのだった。
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