第8話 荒野の小村、地上の楽園になる

 王女アンジェラは、王宮の自室で、突如現れた聖人候補アルティに思いを馳せていた。


「ああ、もう、本当に……あの方の事を考えると変になっちゃいそう……」


「どうしましたか、アンジェラ姫」


 メイドのヘルガが尋ねた。


「いや、アルティ様の事が気になって仕方がなくて……」


「アルティ様というのは、そんなに素敵な方なのですか!」


「ええ、そうですの。ああ……あの方の元に1日でも早く行きたいですわ!」


「でしたらアンジェラ姫、ラブレターを書いてみてはいかがですか?」


「それは良い案ですわ!早速、アルティ様に送ろうと思いますわ」


 そうして、アンジェラはラブレターを書き始めた。



 ♢



「これ………流石にやりすぎだってぇ!!!!!」


 エリカは久しぶりに見るステリンの姿に驚愕していた。


 一方、冒険者たちも大騒ぎしていた。


「ちょっ、荒野にある小村と聞いたのだが、全く違うじゃないか!」

「まさか、不毛な荒野にここまで大規模な街があるとは…………」



「君たち、何を騒いでるの?アルティ様ならこの程度は当然です」



「お!リディア様!お久しぶりです!この街はやはり、リディア様がお造りになられたものです?」


「は?」


 リディアは冒険者の一人に凄まじい殺気を出した。

 その殺気の為に、冒険者は気絶してしまった。


 しかし、リディアは毎回なんで、こんな余計な事をしでかすんだよ……


「こちらにおられる私の夫のアルティ様が、この街の領主です」


 勝手に夫にすなー!


「え?あなた、リディア様とご結婚なさったんですか!」


「いや、そうでは……」


「そうなんですかぁ!!!ボクも欲しかったんですけど、取られちゃいましたか〜」


「いや、そもそも……」


「あ、もし彼女を譲ってくれるならボクに譲ってくれても良いんですよ?」


 リディアの余計な発言のせいで、一人の冒険者が寄り付いてきた……


「君、アルティへの嫌がらせはやめよう?ね!」


「ア、ハイ……」


 流石エリカ!ナイスである。


 すると、ナギが街の奥から走ってきた。


「アルティぃ!!!新しいギルドの支部が完成したぜ!」


「お!それは良かった。じゃあエリカと冒険者さん達に、新しいギルドを案内する」


 俺はエリカと冒険者たちを出来たばかりのギルドに連れてきた。


 冒険者たちはかなりざわついている。


 なぜなら――――――――


「ちょっ、アルティ!これはどういうつもり?」


「いや、ちょっとやりすぎたかなぁ……」


「やりすぎにも程があるよ!こんなの、本部よりも立派だよ!」


 そう、このギルド支部があまりにも立派だからである。


 レンガ造りで、時計塔までついていて、何よりデカい。まさに世界的大都市にあるギルドのような立派な建物だ。


 しかし、こんなもの序の口で、肝心なのは内装だろう。

 俺は冒険者たちを、ギルドの中に案内した。



「この表は……あり得ん!」

「素晴らしい内装だが、何より……」


 入ってすぐ、冒険者たちは壁に貼られている報酬表に注目した。


「ちょっ……アルティ!これ本気なの?」


「みんな騒いでるけど、もしかして報酬安すぎた?」


「いや、むしろ真逆だよ!この額、相場の10倍以上だよ!やりすぎだって!」


「そうか?まあ、でもこのままでいいよ。その方が冒険者にとって良いだろ」


「まあ、確かにね」


「じゃあ次は冒険者さん達の新居へ案内しよう」



 そして、俺は冒険者たちを居住区へと連れて行ったのだが…………



「こ、これは……夢か?」

「もしかしてここって、神の楽園だったりして……」

「確かにそうだ。アルティ様という方は、もしや神なのでは……」


 冒険者たちは、貴族の邸宅のような自分たちの家を見て、目を疑っていた。


「アルティ……これを一人ずつ冒険者にって……本気で言ってる?頭逝ったんじゃないの?」


「失礼なやつだな。本気でしか言わないよ」


「ごめん。でも、あまりに常識離れしてるから……」


「あ、俺、他にも行かなきゃいけない場所があるから先に失礼する」


 その後、俺は新設された孤児院に来た。


「お!これはアルティ様!……君たち、アルティ様がお見えになった。しっかりとお行儀良くするんだぞ!」


「「「はーい!」」」


 子供たちは元気よく返事をした。


 ステリンの人々は、もともと度重なる飢餓に苦しめられており、子供たちの中には飢餓やモンスターの襲撃で親を亡くした者も多かった。


 そういった子供たちを救うべく、俺はここに孤児院を建てたという訳だ。

 そして、この孤児院は俺のポケットマネーで運営している。


「孤児院長さん、子供たちは全員元気ですか?」


「あの、それが一人だけ原因不明の病気に苦しんでいる子がいて……しかも、あの子は問題が……」


(会話まるパクりするな<大幅改変命令、少女にあまり喋らせるな> )


 孤児院長は端っこにいる獣人の幼い少女の方を指差した。


 確かに、この少女はかなり苦しそうだ。

 しかも細い腕には、誰かに虐待されたような、大きなアザがある。


「アルティ様、実はこの子なんですが、もともと性奴隷だったのを、奴隷商に捨てられたらしいのです」


「そうか。それでこのアザが……」


「この子はトラウマがあるらしく、私を含め、人に怯えて心を開いてくれません……」


「そうか……よし、この子は俺が面倒を見よう」


「アルティ様、本当ですか!それはありがたい限りです!どうか、この子を治してやってください」


「ああ。責任持って育てるよ」


 俺はこの少女を連れて、孤児院を出た。


 この少女は何かに怯えているのか、ぶるぶると体を震わせている。

 奴隷商にやられた虐待がトラウマとなっているのだろう。


「落ち着いて。俺はこの街の新しい領主だ。君に危害を加えるつもりは無い」


「ほ、本当ですか……?」


「本当だ。今日から君の面倒を俺が見る」


「え……わたしにお仕置きをするんですか……」


 急に少女の顔が青ざめた。

 おそらく、”面倒を見る”という言葉が、別の意味で誤解されたのだろう。


 奴隷商は、この子に一体どんだけ酷いことをやったんだ……


「落ち着いて。俺は酷いことはしないし、悪い大人たちから守ってあげるから」


「あ、あ、ありがどうございますぅー!!!」


 少女は俺に泣きついてきた。


「で、でも、こんな醜い獣人を、本当に助けてくれるのですか?」


「もちろん、当たり前だ。あと、全く醜くはない。むしろ、とても可愛い」


「あ、ありがとうございます!もう、死んでも良いです……」


 そう言った少女は、本気で生気を失っていくように見えた。

 もう手遅れの病状なのか……


「いや、死んではダメだ。俺が許さん」


 しかし、そうは言うものの、俺は回復魔法を使えない……

 リディアはどっか行っちゃったし……


「大丈夫です……わたしはどうせ死にます……わたしの病気は伝説級回復魔法【レジェンドフルヒーリング】でも治せないって、昔診てもらった医者が言ってましたから……」


 それならリディアでも治せなさそうだな……


 俺は少女の頭を撫でてやった。


 するとその瞬間、撫でている方の俺の手から眩い光が出た。

 その光は、街中に広がるほどだった。



「一体何が起きた?!」

「この光、なぜか、暖かい……」


 このようなことを人々は口にし、街中大騒ぎとなった。


 すると、リディアが俺の元に走ってきた。


「すみません、建設の指揮をとっていたのですが、突如眩い光が……」


「ああ、それに関しては大丈夫だ。俺も何故かは分からないが、俺の手から出た光だ。それより、この子を……」


 すると、少女が驚きの声を上げた。


「そ、そんな……!さっきまであった病気が、どうやらすっかり治っているみたい……」


 まさか、あの光か?

 確かに、回復魔法のようなものが勝手に発動した感じはあったが……

 これも例のスキルの力か……


 そんなことを考えていると、少女が泣きついてきた。


「わ、わたし、死んじゃうって、悲しくて、ほ、本当に、ありがどうございますぅー!!!」


 俺は少女の頭を撫でてやった。


「そういえば、君の名前はなんだ?」


「わっわたし、レインっていいます」


「そうか。俺はアルティという」


「素敵な名前ですね!ところで、あのー……」


「なんだ?」


「わ、わたしをアルティ様の奴隷として契約してくれませんか?」


 そう言って、レインは突然服を脱ぎ始めた。

 俺は慌てて制止する。


「やめろ。そのような事はできない。やるとしても、大人になってから結婚……ぐらいか、いや……」


「本当ですか!大人になったらアルティ様のお嫁さんになれる!約束ですよ!」


「いや、違う!」


 しかし、レインは聞く耳を持たないのか、「やったー!アルティ様のお嫁さんだー!」と言ってはしゃいでいる。


 すると、それを見ていたリディアが、真顔ながら、俺にものすごい圧をかけていた。


「あの、アルティ様?これはどういう事ですか?」


「い、いや……」


 すると、エリカがこちらに走ってきた。

 ナイスタイミングである。


「アルティ!ついに温泉ができたらしいよ!ナギが待ってるから入りに行こ!……ってこの子は?」


「ああ、この子はレインという子で、孤児院から拾ってきた」


「ああ、そう。レインちゃん、あたしはギルドマスターのエリカ。よろしくね!」


「はいっ!」


 うーん、リディアの機嫌、どうとるかなあ……


 そんなことを考えながら、俺の考案した温泉に向かった。










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