第7話 前世の記憶

 翌朝、俺は村人たちをテントの前に集めた。


「村人諸君!君たちには今日から村のために働いてもらいたい。で、仕事内容だが……」


 俺は大量のレンガの方を指差した。

 このレンガは俺とリディアとナギの3人で徹夜でつくった、魔力で強度を極限まで上げたレンガだ。


「このレンガで君たちの住む家はもちろんの事、村内の道路やギルド、冒険者たちの邸宅を建設してほしい」


 そして、俺は村の完成予想図を村人たちに見せた。


 これは俺が昨日書き上げたもので、将来街になることを想定して、村の中心を噴水広場とし、ギルドがある冒険者区画や村人が住む居住区画を描いたものだ。


「こ、これは!」

「素晴らしい……」


 村人たちが、感嘆の声をあげる。

 すると、リディアが急に俺の前に出てきて喋り出した。


「皆の者、救世主アルティ様のお役に立てるよう、せいぜい頑張りなさい」


「「「ハハァ!!!!!」」」


 リディアめ、訳のわからんことを言いやがって……

 しかし、村人たちの豹変ぶりが凄い。

 一体誰によって、ここまで洗脳されたのだろうか……


 まあ、村人たちがやる気になったのなら良いか。


 俺はテントに戻ってくつろぐとしよう。



 ♢



「ん、あ、やべ、寝てた!ちょっとテントの外に出よう」


 俺はテントの外に出ようとした。


 すると、目の前にはあり得ない光景が広がっている……


「こっこれは、夢なのか?」


 建物の一つさえなかったステリンの村が、街と呼べる規模まで変わっている。

 すると、建築の指揮をとっていたリディアが俺の元にきた。


「アルティ様、ずいぶん長くお休みだったようですね。アルティ様がお休みの間に少し建設が進みました」


「いやいや、少しどころじゃないよ!ところで俺は一体いつまで寝てたんだ?」


「2日程度でしょうか。実は私、アルティ様がなかなか起きてこないので、心配で仕方なくて……」


 いつも感情を表に出さないリディアが、頬から涙を流していた。


「それはありがとう。心配させてすまなかった」


「あの……アルティ様、恐れ多いのは承知でお願いがあるのですが……」


「何かい」


「私を、どうか私を抱きしめてくれませんか……ずっと心細くて……」


「わかったよ」


 俺はリディアの体を抱きしめてやった。

 リディアは顔を赤らめていた。


「さて、俺と一緒に最高の街をつくろうか」


「はい」


 俺とリディアはテントから出て、建設中の街を歩く。

 道路は綺麗に舗装されていて、前とは段違いに歩きやすい。


 しばらく歩いていると、ナギが困った顔をして立っているのが見えた。


「ナギ、どうした?」


「よっ!アルティじゃん!もう起きたんだ……あ、実はちょっと困っていてな」


 ナギは目の前の地面を指差した。


 そこにはお湯が沸いていた。

 天然温泉だろうか……ん?天然温泉?こんな言葉、この世界にはないはず……

 なぜ出てきたんだろう……



 その時だった。

 天然温泉という言葉が引き金になり、俺の脳裏にいくつもの光景が駆け巡る。


 俺の前世の記憶、そう、日本人としての前世の記憶を思い出したのだ。


 そして俺が転生した経緯も分かった。


 そう、俺が主神であり創世神セス・ムーアから、”異世界転生者”として、そして”主神の使徒”として、この地上世界を調停する役割を負っていることを――――――


 しかし、この事は誰にも言ってはならないということも……


 とはいえ、前世の記憶を街づくりに利用することもできそうだ。


 前世の日本からすると、この世界の文明レベルはかなり低い。

 前世の便利な生活を取り戻すため、いろいろ進めていきたいものだ。


 さて、早速……


「よし!この沸いているお湯を温泉にしよう!」


「温泉?それは一体何?」


 俺は温泉の素晴らしさをナギとリディアにアツく語った。


「それだけ素晴らしいものなのですね。アルティ様の発想力、流石です」


「すげーな!おれもその”温泉”に入ってみたい!」


「そうだろ!じゃあ早速つくってくれ」


 俺はナギに、即興で書いた設計図を渡した。


「えーおれがやるのかよおー。まあ温泉に入ってみたいし、やってやるぜ!」


 さて、こっちは片付いた。そういえば……この世界、電灯みたいなものはなかったような……


「リディア、ちょっと良いものを考えた。魔法石はあったりするか?」


「スペシャルボアのものがありますが、魔法石なんて魔力の補給ぐらいしか用途が無いのに、どうして必要なのですか?」


 俺は魔法石と光魔法の付与によってつくる、前世でいう電灯である、”魔力灯”のアイデアをリディアに伝えた。


「それは素晴らしいアイデアですね。流石、アルティ様はやはり天才でしたか」


「俺は天才でもなんでもない。まあ、つくってみるよ」


 俺は魔力灯を発明するために、テントへ向かった。



 ♢



「ちょっ、な、な、なんだよこれぇ!!!!!」


 俺の目の前には、またしてもあり得ない光景が……

 この白亜の豪邸は、一体何なのか……


「この建物はアルティ様のために建てられた邸宅です。サプライズのために今まで存在を隠していました」


「それは嬉しいが……ここまでの建物をまさか2日で?」


「はい。今まで言ってませんでしたが、幸い村人たちがアルティ様の神々しいお力によって進化したようで、余裕でした」


「進化?」


「そうです。実はアルティ様がお休みになられている間、不思議な事に村人たちの筋力、素早さなどの値が格段に上がったようなのです」


 そんな事が……

 それでも建築が速すぎるとは思うけどね。

 おそらくスキルの影響が大きいのだろう。


「まあ、綺麗な屋敷だし、使わしてもらうよ。ありがとう」


 俺は屋敷に入って、さっそく魔力灯の発明を始めた。


 スペシャルボアの魔法石を、光魔法を付与した石に擦り合わせてみる。


「お、やっぱり光った!」


 これを日本の電灯らしく加工すれば、魔力灯の完成だ。


 そうして、魔力灯をつくっていると、リディアが屋敷に入ってきた。


「アルティ様、失礼します。ただいま、エリカら冒険者一行が見えました」


「おお、そうか!じゃあ、出迎えに行こう」


「はい。実は村の子供たちも、出迎えるために街を装飾してくれまして、ありがたい事です」


「それは素晴らしいな。子供達にも礼を言っておこうか」


 確かに、ステリンの村、いや、ステリンの街は花などで彩られていた。


 ステリンはこの2日で大変貌を遂げた。

 でも、まだまだ街の改革は始まったばかりだ。









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