第6話 ステリンの村大改革

 俺たちはあの子供を連れて村に帰った。

 そして、エリカが用意していたというテントの中で子供から話を聞くことにした。


「あたしも思い出したんだけど、この子確か、”時を操る勇者”ナギじゃ無いかな?」


「ああ、そうだぜ。あんたとは、おれが昔ギルマスをしていた時に会った事がある」


「そうだよね。ところでなんでこんな所に来たの?」


「おれも何でかよくわかんねー。バーンズの指示に従っただけさ」


「そうなの。まあ今からこの”ステリンの村”の大改革に乗り出すから、働いてよね!」


「めんどくせーな」


「あ、そうだ、スペシャルボアの肉を忘れていた」


 俺はカバンからスペシャルボアの肉を取り出した。

 すでに焼かれている肉で、一口ほうばってみる。


「うっま!!!」


 思わず声が出るほど美味い。ここまで素晴らしい肉は初めてだ。

 口に入れた瞬間にとろけて、旨みが口全体に広がる。

 貴族でもここまでの肉はなかなか食えないだろう。


 俺は他の3人にも肉を渡した。


「こっこれは……うまい、うますぎるよ!」

「すごく美味しいですね。国王でも食べた事が無いぐらい美味しいかも」

「うっめー!こりゃうますぎるよ!おれにもっとくれよ!」


 どうやら全員、大満足のようだ。村人たちにも渡しに行こう。



 テントから出ると、村人たちは俺に冷たい目を向けた。

 しかし、村人は全員痩せ細っており、餓死者が出てもおかしくない様子である。


 俺は初めに、地面にいる虫を漁って食べている餓死寸前の少女に話しかけ、スペシャルボアの肉を差し出した。


「きみ、お腹空いてるならこれを食ってね」


 すると少女は少し疑いの目を向けたが、空腹に耐えきれなかったのか、肉をとって食べはじめた。


 一口、肉をかじった少女は目をキラキラとさせ、一気に肉を食べ終えた。


「領主様、こんな貧民に手を差し伸べてくださり、感謝しかありません!」


 そう言い終わると、俺の頬にキスをしてきた。何だか恥ずかしい……


 少女が美味しそうに肉を食っている様子を見ていた村人たちは、次々と俺の元に寄ってきた。


 俺は肉を村人たちに配った。

 村人たちは無礼を謝ったり、感謝の気持ちを示したりした。

 そして村人たちは皆、肉の美味さに感動しているようだった。


 ある程度配り終わった後、一人のおじいさんが俺に話しかけた。


「領主様、私はこの村の村長をしているマーカスと申します。この度は本当に助かりました」


「礼はいらない。当たり前のことをしただけだ」


「そんな事は全くありませんよ。しかし領主様はなぜ、私たちみたいな貧民にここまで手を差し伸べるのでしょうか」


 俺は少し困惑した。領主なら貧民といえども村人たちに手を差し伸べるのは当然の事。

 前の領主はその程度の事もしなかったのか……


「領主として食料配給しただけ。この程度のことでそんな事を言われても……」


 すると、村長は泣き出してしまった。


「か、感服しましたぞ、領主様!今日から領主様を救世主様として祭り上げます!」


「いや、そ、そんな事はしなくても……」


 なぜか村長は村人たちを俺の前に集合させた。


「この方は本日より、救世主様だ!!!」


「「「救世主様、万歳!!!」」」


 俺ごとき、救世主なんていう凄い人でも無いのだが……

 しかし、村人たちを止めれそうにもなかった。



 ♢



「うーん、どうしたものか……」


 俺は食料問題の解決策が見つからず、頭を悩ませていた。


「アルティ様、だったらギルド支部をメラントラからステリンの村に移設する?」


「は?そんな事できるの?」


 もしギルド支部が村にできたら、冒険者によって人口も増え、さらにはモンスターの素材が効率よく手に入るため、村人およそ70人分の食料も定期的に配給できるのだが。


「できるよ!ただ、冒険者たちが来てくれるかな……」


「確かに……あ、それならお金で釣るのはどうだろうか。幸い、国王との謁見でもらった聖金貨10枚がある」


「それは名案じゃん!移住した人にどんぐらいの金額を配るの?」


「聖金貨1枚が金貨1000枚だから、一人当たり金貨10枚でどうだ?」


「衛兵の生涯収入レベル……それなら絶対来るよ!」


「金貨10枚って、そんなに多かったのか……」


「ではすぐにギルドを移設しよっと!あたしはメラントラに行ってくるね!ついでに建設業者も呼ぶ?」


「そうしよう」


「わかった!行ってくるね!」


 そうして、エリカは村を出て行った。


 実は俺は今、新しい案を思いついたところだ。

 それは、スペシャルボアの肉をステリンの特産品にすることだ。

 あの味なら、王都で売ったら爆売れするという確信がある。


 さっそく俺はスペシャルボアの狩りに出かけた。



 ♢



 メラントラのギルド支部にて――――――――


「みんな聞いて!今からここをステリンの村に移設するよ!」


「「「はぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!!」」」

「唐突すぎる……」

「流石にそれは聞いてないぞ!ギルマス!」

「反対だ!」


「もちろん、タダで移住してもらおうとは思ってないよ!移住者には家はもちろん、金貨10枚を出すよ!」


「「「はぁぁぁぁぁぁぁ?!!!!!」」」

「金貨10枚って、オレが一生冒険者やっても稼げねえ……」

「前言撤回!絶対に移住する!」

「大賛成だ」


 どうやら賛成多数らしい。


「じゃあ決まりだね!すぐに移住の用意をするように!」


「「「もちろんです、ギルマス!!!」」」



 ♢



 ブリットン帝国のデニス辺境伯邸(アルティの実家)にて_______


「デニス様、ミノタウロスを倒した者が判明したようで、皇帝から知らせがあったのですが……」


「誰だ?言ってみろ!」


「あの、それが、どうやらアルティのようでして……」


「はぁ?!」


 そう言って、デニスは持っていたグラスを兵士に投げつけた。


「そんなバカな!アイツはろくに魔物も倒せんほど弱いはず。嘘をつくな!処刑じゃ!」


 報告した兵士が、他の兵士に捕えられて連れ去られた。


「まさか…………まさかそんな事があるはずがない!しかし……」


 デニスは、アルティ討伐のために派遣した剣士が帰ってきてない事を思い出す。

 このままアルティを生かしては、自分も皇帝に何をされるか分からない…………


「ハーマンよ、即刻アルティの居場所を突き止め、倒してこい!」


「はい、わかりました、父上!」











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