第5話 領地経営の幕開け

「ねえ、アルティ、本当にアンジェラ様を置いてきても良かったの?」


「うーん、でもまあ流石に一国の王女サマを荒野の村に連れて行くわけにはいかないしね」


 実は俺たちが王都を出発する前に、やたらとアンジェラが「一緒に行きたい!」と、ゴネてきたのだ。

 しかし、一国の王女を村に連れて行くのは危険だと思って断ったのだ。

 出発する直前までずっと、寂しそうな目で俺にしがみついて来たが、安全のためならやむを得ないのだ。


 なので、村へは俺、リディア、エリカの3人で向かっている。


 すると、謎の人影が俺たちの方に向かっている事に気づいた。


「あの怪しい人影はなんだ?」


 そう言い終わると、その人影が俺の元に急接近した。


 人影の正体は、どうやら剣士らしい。


 すると、その剣士が喋り出す。


「こんな雑魚にかける時間はねえな」


 そう言って急に俺に襲いかかってきた。


 俺はとっさに【ロウファイア】を撃った。


 俺の事を雑魚呼ばわりしてたくせに、【ロウファイア】は見事に相手に命中し、相手は一瞬にして倒れた。


「一体こいつは何だったんだ?」


「アルティに急に襲いかかって、礼儀がなってないよね」


「すみませんアルティ様、もしかしてあれは村ではないでしょうか?」


 リディアが指差す先を見ると、確かに小さい集落が見えた。地図を見た感じ、目的の村はあの村で間違いない。


 しばらくして、ついに今日から領主として経営する村である”ステリンの村”に到着した。


「しかし、この村、なんかヤバくないか……」


「そうですね。これは私が今まで見て来た村の中ではダントツで酷い。改革が必要ですね」


 そうなのだ。この村の人々は餓死寸前まで痩せ細り、家は崩れていて、文明が全くない様子で、すぐに改革する必要がありそうだ。


 しかも…………………………


「どうやらモンスターたちもお出迎えのようだ!」


 気づけば村は完全にモンスターの大群に囲まれていた。


 俺は咄嗟に【ロウファイア】を範囲攻撃化し、周りのモンスターたちに放った。


「こいつらはBランクモンスターのバードリザードだね。ここまで多いとSランク冒険者でも厳しいかな……って、もう?!」


「うん、なんか全部倒しちゃったな」


「凄い……やっぱアルティ様は規格外が過ぎる……ここまでの量、あたしとリディアが丸一日かけてようやく倒せるかどうかというレベルなのに……」


「アルティ様ならこの程度、当然ですね。しかし先ほどから後ろがうるさいのですが」


 リディアに言われて後ろを見ると、痩せ細った村人たちが一斉に俺の元にひざまずいていた。


「どうか、私たちの命だけでもお救いを……」

「お願いします、どうか……!」



「どういう事だ、俺はこの村の新しい領主。あなたたちに危害を与えるつもりは全く無い」


「そうですよ。あなたたちはアルティ様に失礼です。改めなさい」



「本当ですか。じゃあ即刻この村から出ていってください!」

「そうだ!貴族は信用できない!」

「前の領主にオラの娘を殺されたんだ!貴族は出ていけ!」


 村人たちは急に態度を変えた。


「コイツら……アルティ様を侮辱するとは……」


「いや待てリディア、この人たちは前の領主とやらのせいで人間不信なだけだろう。少しずつ仲良くなっていけば良い」


「そうですか……アルティ様がそう言うなら、処刑はやめておきましょう」


 処刑って、流石にやりすぎだろ!

 リディアはこういう時に先走る……仕方ないけど。


「ところで、アルティ様はこれからどうするつもりなの?」


「うーん、そうだな、とりあえず今日の寝床探しかなぁ」


 しかし、この村に建物なんてものは無く、どうしたものか……


「だったら、荒野のモンスターの素材でベットをつくって焼肉するのはどう?」


「それは名案だな、そうしよう」


 俺たちはモンスターを狩るために村を出た。

 すると、さっそく巨大なボア8体が俺の前に姿を現した。


「コイツらはSランクモンスターの”スペシャルボア”だね。無茶苦茶危険だけど……」


 エリカが言い終わる前に、俺はさっきも使った、範囲攻撃化した【ロウファイア】をボアたちに放った。

 スペシャルボアたちはなすすべなく、一瞬で業火に焼き尽くされた。


「とりあえず焼肉にしたが……」


「ちょ、ちょっと待ってよアルティ様!毛皮チリチリ……じゃなくて、なんでSランク8体を秒で倒せるの!!!てか、どこで新しい魔法覚えたの!」


「え?どこっでって、新しい魔法なんて覚えてないけど。【ロウファイア】使っただけだし」


「いやいや、さっきアルティ様が使った魔法は【ロウファイア】じゃなくて、炎系神話級魔法【マーズインフェルノ】だよ!……ちょっとこれ使えるのは、規格外の域を遥かに超えてるんだけど……」


 俺は遠くの景色を見た。確かにエリカの言っていることは正しいようだ。

 見るまで気づかなかったが、さっきの炎で荒野の地面はおろか、10kmは離れてそうな岩山が真っ二つになっていた。


 俺としては、ただ【ロウファイア】を範囲攻撃化させただけのつもりだったのだが……

 この魔法は自重しよう……


「ともかく凄い量の肉だし、村人たちにも食べさせよう」


「そうですね。あとエリカ、貴方はさっきから騒ぎすぎです。アルティ様ならこの程度、当然なのです」


「……確かに、そうだね」


 いやいや、それは違うだろ!

 あと、リディアもドヤ顔やめろ!


「とりあえず、村に帰ろうか……あれ、あの人は?」


「村人では無いみたいだね。誰なのかな?」


 俺のすぐ前に、ハーフパンツ姿の小さい男の子が立っていた。だいたい10歳ぐらいだろうか。ちょっと中性的な見た目だ。

 その男の子は俺の元に近づいてきた。


「あんたが”主神の使徒”か?」


「俺はアルティ、しがない村の領主だよ。しかし、急に”主神の使徒”か……って、どういうことかな?そもそも、君はどうしたのかい?」


「あ、知らなかったんだった。うーん……とにかく、おれはあんたの監視に来ただけ」


 ”主神の使徒”が何かを聞きたかったんだが……まあ子供の言う事だし、どうでもいいか。

 それより聞きたいことがある。


「”監視に来た”というのはどういう事かな?」


「えっと、まあアルティさんのサポートで、バーンズから派遣されたんだよ」


 国王が今更、俺の元に人を派遣するというのは無い気がする。

 まあ、ちょっと怪しいけど子供だし面倒見てやることにしよう。


「とりあえず、俺の元についてくるんだよ」


「え、この子連れて帰るの?!」


「良いだろ、子供だし」


「確かにね。ほっとくのもかわいそうだね」


 そして俺は、その子供を抱っこしようとすると急に蹴り飛ばされた。子供とは思えない、凄い力だ。


「おい、おれを子供扱いするなよ!」


 そう言って、子供は上目遣いで俺の方を睨んでくる。なんかかわいい。

 しかし、隣にいるリディアは鋭い目でその子供を睨んでいた。


「アルティ様に刃向かう奴は許しません。即刻お前を処刑します」


 そして俺が止める間も無く、リディアは子供に向かって【スペースフローズン】を放っていた。


 しかし、その子供は即座に、それを避けた。


「あっぶねーよ!まあ、そっちがやる気なら、面倒いけどおれも戦ってやる!」


 子供は腰に下げていた剣を抜き、リディアに襲いかかった。


 リディアはスレスレで避けたが、剣の衝撃を受けた地面が真っ二つに割れた。


「ものすごい力だ。子供とは思えない」


「うーん、あたし、なんかこの子の見覚えがあるんだよね。誰だっけ」


 すると子供の方もエリカのことを見つめ、ハッとした顔をした。


「あんた、もしかしてメラントラのギルマスのエリカか?」






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