第4話 謁見と聖人会議

「お、これはこれはエリカ殿、はるばるお疲れ様です。今回の聖人候補とは、もしやミノタウロスを瞬殺して王女殿下を救ったお方でしょうか?」


「そうだけど、なぜセバスが知っているの」


「噂としてこの王宮にまで広がっているからですよ。今や王都はこの話題で持ちきりです」


 セバスという使用人によると、俺がどうやらこの王都で噂になっているらしい。

 なんか嫌だな……


「ねえ、セバス、私もアルティ様の謁見に出て良い?」


「おお!王女殿下!わたくし、心配しましたよ!無事に帰ってこられて何よりです!」


「今まで気づかなかったのかい!で、謁見に出て良いの?」


「良いですよ。ぜひ、陛下に顔を見せてやってください」



 このあと、俺たちは王女改めアンジェラや、リディア、エリカとともに、豪勢な夕食を振る舞われた。


 生粋の貧民である俺は、食べたことのない煌びやかな料理を思う存分味わっていた。

 最高の気分である。


 そこにセバスが来た。


「まもなく謁見の時間ですので、陛下の御前にご案内いたします」



 ♢



「アルティよ、良くぞ来た。そなたの話はすでに聞いているが……」


 国王にして、英雄王であり、世界で6人しかいない聖人のうちの一人であるバーンズ・バース・オルマンは、荘厳な面持ちで俺の方をじっと見た。


 国王の謁見にはアンジェラらをはじめ、総勢100人以上の貴族たちが並んでいた。


 後ろにいる貴族たちが話す声が聞こえる。


「あの男、平民のくせして陛下と謁見とか、ふざけてるわ」

「そうだ!平民ごときが、何をイキがってるんだ!」



「もの共、黙れ!!!」


 国王が貴族たちに怒鳴りつけた。そして国王は話を続ける。


「今まで我は、この者がなぜ突然、聖人候補となったのか分からなかった。しかし、今は分かる」


 そう言って、国王はアンジェラの方を指差す。


「我が娘アンジェラは、路地裏に突然出現した難敵、災厄度Sのミノタウロスに襲われた。

 しかしそんな時、ここにいるアルティが、そのミノタウロスを瞬殺したのだ。

 アルティがいなければ、我が娘は亡骸となっていた……」


 貴族たちが大きくザワつく。


「アルティよ、いや、我が娘の命の恩人よ、そなたの活躍は我が国の歴史に残るほどだ。それをたたえ、そなたを男爵とする!」


「はぁぁぁ???!!!」


 貴族たちも、揃って驚きのあまり目を丸くしている。


「しかし、本題は聖人にするか否かだ。アルティよ、そなたはすでに聖人以上の戦闘能力はあると見ている。しかし、そなたには経験が足りぬ。そこで、そなたにはここを治めてもらう」


 国王は地図を開いて、荒野の真ん中を指さした。

 どうやら俺は面倒いことをやらされそうだ。


「ここにある村を王都リュクサンブールよりも繁栄させれば、国としての独立を認めると共に、そなたを聖人としよう!」


 流石にそれは無理では……と言うより面倒くさい。聖人の地位にそこまでこだわってはいないので、俺は断ろうとした。


 しかし、リディアとアンジェラは俺に向かって目を輝かせ、国王はニコニコとして、圧をかけてくる。


「この試練を受けるならば、聖金貨10枚を与え、試練中も我が積極的に支援を行うが、どうだ?」


「………っ、う、受けさせて頂きます……」


「おお!それは良かった!では、これにて謁見を終わる!」



 ♢



「やっと来たか、バーンズよ」


「ああ。遅れてすまない」


 オルマン王国の国王でありながら、6人の聖人の一柱であるバーンズは、ギルド総本部で開催される聖人会議に一足遅れて参加した。


「ところでバーンズよ、今日は最重要の報告があるらしいじゃないか」


 聖人の一柱、”超力の巨神”グレッグ・ロワリーは鋭い目つきでバーンズを見た。


「ああ、そうだ。とんでもない事が起こった。結論から言うが、我が国に”主神の使徒”が来た……」


「「「ファ?!………………」」」


 他の5人の聖人たちは、あまりの驚きに、一斉に変な声を出した。


「おい、ちょっと待てよ、意味わかんねーんだけど」


 聖人の一柱、”時を操る勇者”ナギ・スタンレーは、テーブルに足を上げてバーンズを睨みつける。


「そうだな、バーンズよ。主神はすでに1000年前の大戦で竜神に滅ぼされているだろう。今更”使徒”なんてよこす訳がなかろう」


「我もそう思っていたのだが、違ったのだ。これを見てくれ……」


 バーンズは一枚の紙を聖人たちの元に見せた。



 アルティ


 レベル2860


 総合力 15万3235

 潜在スキル 【主神の使徒】(効果不明)

 伝説級魔法【ロウファイア】



「「「ん、ハイ?………………」」」


 この紙を見た聖人たちは、驚愕のあまり、放心状態になった。


「お、おい、こ、これは、まさか、ほ、本当なのか?」


「本当だ。この者と謁見したときにコッソリとったデータだ」


「そうか……恐ろしいな。ところで、この者を原野に放り出してはならんだろう。すでに捕まえる事はできたのか?」


「それが、どうやら本人は【主神の使徒】の存在さえ知らない感じでな、それで捕えるのも違う気がするので領地を与えて監視下に置くことにした。しかし……」


「なんだ?」


「現地で監視する奴が居ない。誰か暇そうなやつにやってもらいたいのだが……」


 聖人たちの視線は一斉に”時を操る勇者”ナギの元に注がれた。


「はあ?おれがやれっていうこと?うーん、仕方ねえな……」


「決まりだな。ではナギよ、ステーテル荒野のステリンの村に向かってくれ」


「あそこかよ!くそド田舎じゃねーか!」


 バーンズがナギに圧をかける。


「わかったわかった、やるよもう……」


「よし、では今回の聖人会議は解散だ」






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