クラン長になって絶望する

ブロロロロロ~~、キキーーー


「いいですか?車は空を飛べないどころか、ジャンプも出来ません。勝手に走る馬車と思っていいです」



「そして、この車の中にガソリンが入っています。抜いたガソリンで試してみます。このガソリンをしみこませた布に、誰か、火をつけてみて下さい」


「はい、着火!」



ボオオオオーーーー


「「「「オオオーーーー」」」


「そして、車輪のタイヤは、パンクしやすいのです。アルキデスさん。斬って下さい」


「はい」


バシュ!


パジェロに備え付けのタイヤで実験しました。


「パンクって」

「動けなくなると理解して下さい。刃のついた車両止めを作れば止ります」





今、街の外の草原で98名の冒険者を集めて、バルト達が乗ってきたパジェロで実験中です。

説明しています。



「そして、異世界の陸軍の基本戦術ですが、機甲化部隊と自動車化部隊があります・・・」


およそ戦場の100キロ先から戦車、装甲車で行軍し、そのまま戦場に突入するのが機甲化部隊、歩兵は装甲車で守られます。


自動車化部隊は、兵員はトラックで運ばれます。戦場の数キロから数十キロ先で、歩兵を降ろし、徒歩で行軍します。


「何故なら、トラックや自動車は燃えやすいからです。基本はこれです」


「そして、野田君はミリオタです。私は・・・」



海外で銃を覚えたので、日本に帰って、ミリオタの方々のサークルに入ろうと思いました。


個別の兵器、部隊、とても詳しいのです。

しかし、


「もし、日本で戦争になったら、自衛隊のトラックや高機動車に防弾処置することが先でしょう。補給を担うのはトラックですから・・」



「「「「アハハハハハハハハ」」」


笑われたのです。あまりに基本的なことなので、呆れたのだと思ったのですが、違ったのです。



「・・・それはたいした問題ではないよ。ミリタリーとは関係ない」

「流鏑馬戦車が守るから大丈夫なり!」



はっ?と思いました。

いや、関心を示さないのならそれでいい。しかし、積極的に否定し出すのです。


まるで旧日本軍の将官のように人員を軽視する発言や。


「今は、ドローンで皆やられるからする必要はないかな」


どこから得た情報か分からないことを得意げに話す人や。


「それね。紛争地帯だと、要人が乗っていると思われて装甲車はRPGでやられるよ。普通車だと狙われない」


「それはどこの紛争地帯の話ですか?」

「一般論だよ」


はあ?と思いました。


また、論外な話をする人。


「パンターパンターのように何かあったら飛び降りれば大丈夫だよ」


それから、銃の片手撃ちがどうのこうの。とどうでも良い話が続き。

私は席を立ちました。




・・・・・



「私は海外で、軍人、元軍人と話している内に、彼ら目線になっていることに気がつきました。

 ミリオタは、ゲームのプレイヤー目線です。自分が戦争に巻き込まれたら、仕事で紛争地帯に行かなければ、とかの視点が一切ありません。野田君もどこか地に足がついていないように思えました」


話は通じるだろうか?



「燃えやすいのは分かったけど・・・でも、相手も分かっていたら、対処するのではないですかね・・すみません」



「ええ、その方法はあります。パジェロの幌を外して、銃座を構えて、怪しい所は撃つ。そうなっていたら、適当に戦って、お茶を濁しましょう。こちらも銃は鹵獲しました。今、ドワーフ工房で整備をお願いしています」



それから、訓練を始めました。

何パターン化を分けて考えます。

襲うのは車に乗っている時です。

それ以外だったら、逃げるを徹底します。



「なんだい。こりゃ、スゲー、小さなピンがあって、苦戦したよ」

「どうもです。ガシムさん」


「しかし、部品が、大きさだけではまっている・・・」


「作れますか?」

「無理・・・似たようなものは作れるが、この筒は?筒の中に部品が動くように絶妙にはまっている。こりゃ、芸術品だよ」


「多分、排気を利用して、この部品がここに当たって、撃鉄を元の位置に戻すのでしょう。私の世界ではピストンですかね」

「ああ、なるほど、自動ハンマーとノミか・・・動力はなんとなくわかったが、何に使うかさっぱりわからねえ」


「お金を払いますので、分解と組み立てを教えて下さい」

「あいよ」



銃は64式一丁、弾は88発です。


撃って試します。



バン!バン!


カン!カン!


「ヒィ、こんなの無理・・・鎧と盾が貫通したよ」

「ダメだ」


「では、土嚢で試します」


バン!バン!


「あれ、止ったよ」


「次はリリーさん。弓で土嚢を撃って下さい」

「うん」


シュン!


ズボ!


「あれ、矢は貫通する」

「多分、矢は重さがあるからではないですかね」


実験を繰り返す内に。

水は通しにくいことがわかりました。


バン!バン!

バシャ!


「ウォーターボールが吹き飛んだけど、弾が地面に落ちたよ」



実験と訓練を行い。

その間に、ギルマスと受付嬢さんが、王命を盾に物資と馬車を集めてくれました。


私の能力で収納して、人員だけを馬車に乗せます。


銃は・・・


「リリーさんやってみますか?」

「・・・うん」


寝撃ちから教えます。銃は体をどこかに固定するほど、当たりやすくなります。

まずは予行練習です。

照準の仕方を教えて・・・


「あ、リリーさん。引かない」

「・・・体を触って動かして欲しい」


昨今、セクハラ問題を意識して、女性の体は触っていませんでした。


「私の習った騎士は、こうやって、銃に対して、まっすぐではありません。無反動砲の後方爆風を避けるためです」



バン!バン!


「はい、やめ」

「当たらない」


「リリーさんは肩を引くくせがありますね。弓の射撃術のせいですかね。肩は、こう、張り出して・・・」



と教えていたら・・・注意されました。



「リリー、サイトーさんと二人で何の訓練をしている?」

「うん・・・寝転がらせられて、ベタベタ触られて・・・」


「あ、そうか・・・」



・・・・



「サイトーさん。本人が良ければ別にいいけど、責任はとるべきです。それが冒険者間の決め事です。あちこちに手を出したら女性冒険者に嫌われますよ」


「はい、アルキデスさん。何を」


「リリーの事です」


「いや・・・もし、そうなったら、責任を取ります」



出発前夜、ギルマスが食事会を開いてくれました。


私はポーターです。収納能力を生かして、総務のような役割でしょう。



「この臨時のクランは、メリング戦闘団とし、クラン長はサイトーさんにします」


「わ・・私に統率は無理です」


「いや、サイトーさんの作戦だろ」

「サイトーさんしかいない」


報酬金額を決め。私は成功報酬の五パーセントにしました。

皆は具体的な金額を予想できます。


メリングの街を出発し。


方々の街の冒険者ギルドで馬鹿にされたり。同情されたりで、行程10日ほどで、やっと、アモンの街が見えるところまで来たのです。



「やっぱり、道路が広い。車だと制限があるのですね」


「サイトーさん。あの建物を本部にしましょう。誰もいません」

「蛸壺陣地をつくります。どこら辺がいいですか?」


「はい、現地を見ます」


この世界の野伏せりを参考にしました。

二人ぐらい入れる穴を掘り。隠れて、一斉に襲う。


待避壕の土嚢陣地を作り。草で隠蔽をする。


さあ、訓練だ。と思ったら。


バシュ!バシュ!


「大変だ。見張りから、信号魔法・・・タイプ、トラック型2,小型車、識別不能1がこちらに向かっています!」


「分かりました。幌はかかっていますか?」

「不明!」


「クラン長!」


「・・・やります。配置につけーーー」


「「「「オオオオオオオーーーーー」」」


現実は不条理です。

絶望する。指揮官になって絶望する。

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