戦うことになって絶望する

 

「ノダ様が負けた?!」

「冒険者軍は総崩れだってよ」

「王女アルロッテ様は戦死・・・遺体を晒されているって話だ」




 そんな噂が流れてきました。流言飛語か?悪い噂ほど早く流れるようです。


 しかも、日々具体的になってきました。


「魔族の奴ら報復に軍を編成したよ」

「魔族の村を襲ったんだって」

「素材を取ったらしいよ。魔族の角・・」


 今までは、勇者とパーティーは魔族領に潜入したら、魔族の村々を襲わない代わりに、魔族側は小部隊の迎撃に努める。

 四天王も二人一度で襲わない慣習があったようです。


「野田君は?」

「それが、生きているようだけど、城に帰っていないみたいだ」



 それからしばらくして、王宮から使者がやってきました。


「サイトーはいるか?再鑑定をする!」

「水晶に手を当てろ」



「何だと、まだ、複写か?軍師のジョブは?」

「貴様、ノダ殿の敗北を予見した。何故だ?」


「はい、危なっかしいと思ったからですよ」


 車は目立ちます。もし、やるとしたら、小説みたいに徒歩でいくか。大々的に騎士団で攻め込むのが良策でした。

 と言っても今更です。


「何だ・・・たまたまか」


 城の使者は帰って行きました。



 それから、野田君は正式に賞金首になりました。

 残存冒険者と孤児に銃を配ってアモンの街でやりたい放題・・・


 悪党は地元では良い顔をするのが鉄則です。

 満州の馬賊、江戸時代の侠客は地元では治安を守る役割をしたのです。


 そうすることで経済が潤い。自分たちを守られます。

 目的は経済です。


 これは、戦わなければ、ポイントが手に入らないシステムでは?



「騎士団が敗北したって」

「意味分からない。負けたのは最弱の魔王サラだよ」

「いや、分からないけど、分かる・・・サラ、ノダ、騎士団の順番の強さだよ!」


「ギルマスから説明してもらいたいな」

「それが、こんな時に、ずっと留守だよ」



 私は変わりません。この街で『希望の翼』の方々とクエストをこなしています。

 一角グリスリーは最近活性化しています。

 仕事はあります。



「サイトー殿はおられるか?」


 今度は傭兵団がやってきました。



「我に策を授けよ。良策なら金を払おう」


 傭兵隊長です。侮れません。荒くれ者の傭兵を束ねているのです。

 こういう輩は・・・


「生活に困っていないので、結構です」

「ちょ、待て、金貨を払う!良き策ならもっと払うぞ」


 ですから、私の策を話しました。



「今はやめておいた方がいいです。野田君が占拠している屋敷を遠巻きに包囲して兵糧攻めです。

 土嚢で弾丸は防げます。魔道士に土塁を築かせて、ロングボウで遠間から戦います」



「はあ、土嚢って川が氾濫したときのあれか?我が傭兵団の名前は鉄盾団だ・・二重の盾を使うぞ!失望した!」



 ・・・・・



「鉄盾団!敗北したって!」

「盾が余裕で貫通したそうよ」


 まあ、私には関係ありません。


 が、関係ありました。


 ギルマスが帰って来て、全冒険者集合です。

 冒険者御用達の酒場に集められました。

 受付嬢と一緒です。神妙な顔をしています。


 ザワザワザワザワ~~

「魔王軍攻めてくるの?」

「対魔王軍のクエストかよ?」


「いや、魔王軍は国境に集結している。騎士団が対応している・・・クエストの話ではあるが、そうではない」



「ノダ討伐の王命クエストが下った。この駆け出しのギルドだ・・・全冒険者ギルマスが集まられて、どうせ出すなら、駆け出しを出して・・・お茶を濁そうと決まった・・・すまない」


 ガクッと首をうなだれます。

 中間管理職の悲哀を感じます。


「オラたち、『大麦村の三勇士』がでるだ!失敗しても少しはお金もらえるだか?」


「いや、完全成功で大金貨300枚(三億円)だ・・・・」



 皆の目は、『希望の翼』に集まります。

 私のせいだ。入るのを躊躇したから、中級の街に行かなかった・・・・


「分かりました。私達が行きます。その代わり皆はこのままで」

「おリーダーの言うことがお絶対ですわ!」

「僕もそう思う」

「うん・・・弓で殺す」


「では、私もお伴します。ポーターは絶対必要ですね。アルキデスさん。入ります」



「サイトーさんは不採用だ」

「まあ、優柔不断なお殿方はお断りですわ!」

「僕もそう思う」

「うん。今夜、私の部屋に来る・・・・」


 リリーさんだけおかしいですが、分かっています。

 皆、私を気遣って、死に行くクエストに参加させないのですね。


 そんなの全然嬉しくない。



 ブロロロロロロ~~~


 車の音、人が降りてきます。もしや、野田君?


 いや、違った。バルトでした。


「おい!サイトー、ノダ様がお呼びだ!車に乗れ!」


 カチャ!


 銃を持っています。あのタイプは64式?


「バルト!」


 五人で、銃を持っているのはバルト一人。一人を支援するために、近接の武器を持っている。

 彼らも冒険者の端くれ。戦術を考えていますね。


 野田君は、私を必要としている。

 殺されは・・・しないだろう。多分。


「サイトーさん。逃げて・・」


 私はアルキデスさんの手を払い。バルトの前に出た。


「そうこなくっちゃ。まあ、良い暮らし出来るぜ。女は取り放題だ・・おい!」



 ☆回想、東南アジア某国


「(日本人か?言葉通じるか?お前・・・来い・ウギャ!)」


 バン!バン!


 私の前でハンドガンを構えていたC国人が死んだ・・・膝がガクガク震えている。


 撃ったのはこの国の警察軍だ。

 予告射撃もなしに・・・


 国境近くに盗賊砦があって、C国の公安が来たら、この国に逃げるを繰り返している凶悪なチャン兄弟・・・


 何で、21世紀に盗賊砦があるんですか。



「C国では麻薬を持っているだけで、死刑だ。だから、凶暴極まりない」

「しかも、戸籍のない奴らだ」

「人質は大人しいか、反抗的な人物を狙う。だから大人しい君を連れ去ろうとしたのだろう」

「で、日本人が何でこんな辺鄙な所に?」



「あ、斉藤です。日本製の地雷探知機を使ってもらいたくて」

「おお、サイトー聞いているよ。日本製は性能が良すぎてどうなんだ?」

「いえ、調整できます。だから使ってもらいたくて、吉田さんの知り合いです」



 この国は長い戦乱で、地雷があちこちに埋められたままだ。私は海外でボランティアをする人に日本の機器を使ってもらって、実証試験をするのが仕事だ。


 危険な地域ほど多く残っている



 ・・・・・・


 私は射線を外して、銃を手にした。


「おい、サイトーのくせに何をする!」


 吉田さんの教えが浮かぶ。



『いいか、銃の構造上、必ずコウカンというものがある。そこを抑えられると』



「うわ、銃を掴むな!」


 私は64式の機関部の上部の突起物を抑えた。

 安全装置は、動かない。ボタンを少し上げて動かすタイプか。こいつ、いきなり、連射をするつもりだったな。


 カチャ!カチャ!


「うわ~~~撃てない」


 ドタン!


 私は銃の取り合いをしながら、背を向け。足をかけた。




「貴様!・・・うわ、何だ」



 奪った銃を構える。


 周りは駆け出しとはいえ。冒険者ばかりです。

 すぐに五人は捕まりました。


「サイトーさん・・は一体」



「馬鹿ですか?年上を庇って若者が死ぬ。それ、1番嫌なパターンです。

 それに、何故、聞かないのですか?異世界人の弱点を!私は異世界人です」


「・・・え、それは」

「僕は聞きたい」

「うん。今晩・・・ベッドで聞く」



「いいですか?勝算はあります。異世界(日本)には軍事常識がありません。そこをつけば勝てるのです!どうせ、避けられない任務なら、生き残る方法を模索しましょう!」



 そうです。日本人には軍事常識がないのです。自衛隊、その家族だけと言っても過言ではないでしょう。



「・・・やる」

「俺たち、『希望の翼』はついてくぞ!」

「『魔道娘6』もついていきます!」


 ギルド所属の総勢、98名が名乗りを上げてくれた。

 こんな。希望に満ちたプロジェクトの始まりですが、1番初めての作戦は・・・



 拷問でした。バルトたちから情報を聞き出します。


「ウギャー!話す。話すからーーー」


 絶望する。戦うことになって絶望する。







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