新人最年長になって絶望する
「よろしくお願いします」
「こちらこそですわ!」
似非お嬢様のローズマリーさんに剣を教わっている。今日は木剣で模擬試合だ。
彼女の剣は、
左腕が前に来るようにやや半身で構え。左腕はだらしなく下げている。中腰だ。
動かない。
私が木剣で当てようとすると、すかさず受け止められ、彼女はクルと手首を返して、私の右手首に木剣を軽く当たる。
ポンッ!
何回やってもこの調子だ。
「有難うございました」
「こちらこそですわっ!」
「あの、何故、私に稽古をつけてくれるのですか?」
「お素人とのお戦いを想定していますの!お素人のお軌道は予想しづらいですわ」
そういうものか。彼女は金髪の縦ロールだ。短めなのは戦いを想定しているのか?
彼女の父親は平民の剣術師範。道場主だ。そこで英才教育を受けたそうだ。
女騎士学校に行きたいが、あまりに剣に格式がないからと不合格になったそうだ。
しかし、令嬢の護衛というホワイト職場に行きたくて頑張っているそうだ。
剣は出世の道具か。それでいい。
彼女のパーティーの二人が来た。
彼女の父親の道場で剣を習った魔法剣士のアルキデスさんと、民間の魔道学園を卒業したばかりのミッシラさんだ。
「ところでサイトーさん。うちのパーティーにポーターとして入りませんか?」
「そうだよ。早く決めなさいよ」
「アルキデスさん。ミッシラさん。それはちょっと考えさせて下さい。私には自信がありません」
「俺たちも自信がありません。17歳の駆け出しですよ。駆け出し同士仲良くやりましょう」
「僕も卒業したばかりだから18歳だよ」
うわ。未成年かよ。ミッシラさんは、辛うじて成年だ。しかし、皆、顔つきが違う。そうか、冒険者は個人事業主だから覚悟と経験が違う。
「あら、私はお16歳でしてよっ!」
「ヒィ、嘘・・・いや、その貫禄、失礼、令嬢かと思いました」
「「アハハハハハハ」」
「オホホホホですわ!」
剣を習ったことだし。
本物の剣を買った。最安値の中古の鉄の剣だ。
ゴシ!ゴシ!
砥石も買って刃を研いでいる。
水を潤滑剤として使って、サビを落とし。刃をとがらせ。
ボロ布で拭き。最後に油を薄らと塗る。
「よし。ピカピカになったか?」
多分、私は滅多に剣を使わないと思う。
しかし、整備は怠らないでおこうと決めた。
何故なら、ここの冒険者ギルド、うだつの上がらない奴らの武器はサビがある。
たいして、上に行きそうな若い奴は、武器の整備に余念がない。
野田君が去ってから、しばらくすると、魔族領でのクエストが張り出されるようになった。
「駆け出しも可!魔族領での素材を取る仕事か」
「ノダ様の後ろについて行くから安全だって」
若い奴が相談に来た。
「サイトーさん。俺たちも応募しようと思います。どうですか?」
「やめといた方が良いですよ。勝つことを願っているが負けると思います」
「何故?」
「俺たち、村に送金をしなければなりません」
「着実にキャリアを積むことと、送金は別です」
ああ、どうやって、説明しようか?
「ギャハハハハハ、これで大儲け出来るぜ」
丁度良かった。うだつの上がらない冒険者がいた。バルトって言ったっけ?
私は小声で言う。
「彼の剣、みたことありますか?サビだらけです」
「ええ、そうですか・・」
「野田君は武器の整備を知りません」
☆回想
私は商社マンだった。東南アジアの某国に行ったとき。仕事で、元自衛官の吉田さんと知り合いになった。
射撃場に連れて行ってもらった。
『どうです。斉藤さん』
『いや、もう、何が何だか。思ったよりも当たりますね。100メートルですが』
初心者向けのライフルだ。左右に壁があって、座って、肘を机に固定して狙うタイプだ。後ろにインストラクターがいて見てくれている。
帰るとき。
『お、AK(アク)の整備をやっている。見ていこう』
吉田さんは銃を整備している職員に興味を持った。
「見学させて下さい」
「いいよー」
職員はニコッと笑って、銃を分解していた。ボロキレでふく様子を・・・。
ジィー!
吉田さんは真剣に見ていた。
『すごいな。整備がしやすい』
『そうなのですか?』
聞けば、軍隊と言うものは、基本、銃は個人で整備するものだそうだ。
『そうすると故障を自分で排除出来る。不思議だった。富士で演習に参加していたら、引き金が引けない。分解してみたら、入らないだろうと思える所に小枝が入っていた。銃は思ったよりも装弾不良を起しやすい』
『へえ、そうなのですか?』
『だいたい1000発に一回計算だ。整備は射撃をしたら毎日分解して整備する。それは民兵も変わらない。整備しやすくてもそこは変わらない』
『お客さん、この銃、500$で買いませんか?』
『いや、日本に持って帰れないだろう』
『アハハハハハ』
後に知った。銃は毎日整備しないと、余裕で錆びるし、カーボン繊維などが固着して動きにくくなる。想像以上だ。
そして、野田君は、城で射撃練習をしたが、銃の外観を拭くだけだ。
分解もマガジンを外して、挿入口から布を入れて中を拭くだけで満足する。
『野田君、分解して拭いた方がいいですよ』
『よく分からないからいいよ。僕はそこまでのオタじゃない』
『もう、一丁だして見本にして、分解して見ましょうよ。そして、部品までふいた方がいい』
『たいした問題ではないよ』
・・・・・・・
「それに、これからクダクダになると思います。やるとしたら、騎士団に銃を配って、迫撃砲も出してもらって・・・・」
いかん。ミリオタになるところだった。経験していないことをさも知っているかのように・・・
「そうだね。いきなり魔族領はハードルが高いかな」
「やめよー」
何とか分かってもらった。
そうこうするうちに、メリングの冒険者ギルドは本当に新人だらけになった。
ベテラン組は魔族領に行った。
いかん。最年長は私か?絶望する。
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