言わないで良いことを言って絶望する
「はい、リリーさん。ホーンラビットですね。さすがですね。確認しますね」
「うん」
夕方、メリングの冒険者ギルドの受付では行列が出来ていた。
クエストが終わった者が帰ってくる時間帯だ。
ブロロロロロ~~、キキッーー
あれ、自動車のブレーキの音がした。
【お~い、ノダ様が来たぞ!列を開けろーー】
この駆け出しのギルドでくすぶっている冒険者たち、いわゆるベテラン新人冒険者たちが叫ぶ。
ツカツカツ~
銃を抱え。美女に囲まれた野田が登場した。
行列はサーと空くが。
残っている人達がいた。
「おい、ノダ様はお忙しいのだ!列を譲れ!」
「バルトさん。それは無法ではないでしょうか?」
「はん?」
列を譲らないのは、期待の新人パーティー『希望の翼』のアルキデスの3人パーティーと、猟師のリリーだ。
「ヘエ~、初めてだよ。列を譲られないの。ここは、王女のアルロッテの顔を立ててくれないかあ。これから夜会なんだ。分かるよね
僕は君たちが苦労している一角グリスリーを五匹も討伐したんだからさ。敬意を払って欲しい」
「だからなんなのですの?」
「僕、そういうのは嫌い」
「・・無理、今、受付中・・・」
「アハハハハ、いいよ。これはイベントなんだよね」
野田が銃を構えた。
いかん。いかん。
私はもみ手をしながら、人混みをかき分けて前へ出た。
「野田様!おひさりぶりです」
「ああ?サイトー、まだいたの?生きていたの?」
「へへへへ、おかげさまで、野田様が受付に並ぶなど・・・一体、お付きの方は何を考えているのですかね?普通はVIPルームでしょ!」
私は受付嬢に目配せをした。
コクッとうなずき。即興の芝居を打ってもらった。
「はい、ノダ様には当ギルドで1番良い応接室で対応させて頂くのが筋です。なのに、誰かが列を空けろとか言うから、一瞬、皆、戸惑いました。ご容赦下さい」
「さすが、気が利く~」
フウ、何とか。ごまかせた。ギルマスに対応してもらおう。
外に出る。
「これは・・・」
自衛隊のパジュエロと高機動車だ。
それも召喚出来たのか?
ヤバいだろ、これで魔族領に行ったら死ぬだろう。
自衛隊のこれらの車は、普通車だ。民間車と同じだ。
海外派遣に行くときは防弾処置をする。
日本の法律的に不味いのかは知らないが、国内に帰って来たら防弾装備を外す。
普通車は簡単に燃えるのだ。
「防弾処置がされていないじゃないか?」
最低、軽装甲車でないと危ない。北朝鮮ですら、ソ連版ジープから軽装甲車に切り替わっている。前線の小隊長クラスの指揮所になる。
「アハハハハハ、これで、皆で何か食べてよ。僕はポイントを取れたらそれでいいから」
チャリン♩
「「「オオオオオオーーーーー」」」
「バルト君、名前覚えたよ。臆病で使えないおっさんが近くにいてね。魔族領に行ったらクエストかけるから来てね」
「あ、サイトーどしたの?運転手で連れて行ってもらいたいの?これ、オートマだから別にいらない」
「あの野田様、最低、軽装甲車、それか、装甲車を装備してから行った方が良いのではないですか?」
「それを出すなら戦車かな?」
「なら、61式を・・・」
「16式か、やはり、流鏑馬戦車を見たいかな」
戦車、運転は大型特殊だ。運転は出来るだろう。しかし、砲は?
最新鋭の戦車が武装ゲリラに鹵獲されても運用されている例は聞かない。
そう言えば、アフガニスタン粉争の時も北部同盟に新しい戦車を供与しようとしたが、T55の方が良いと断られたと言う話を聞いたことがある。
何だかムカッときた。
「あのな。戦いにロマンなんてないよ!武器は何だ?銃だけか?迫撃砲は?無反動砲は?無線機は使えるのか?今のお前は武装ゲリラ以下の戦力だ。負けるよ・・・グハ!」
銃床でみぞおちを殴られた。
「ウグ、グググーー、ゲハッ」
膝を地につき。吐いた。
奴は銃を構えやがった。
「・・・・射つよ」
あれ、女の声だ。
「!!!何だよ」
リリーだ。短弓を構えて、野田の後ろに立っていた。
「この距離なら・・・首に当てること・・出来る」
「チ、やってられない!イベントはスルーだ」
ブロロロロロ~
奴は車で去った。
言わなくても良いことを言ってしまった。『負ける』と言ったら、私でも反発するな。
絶望する。
その後、何故か。リリーが私にカラむようになった。
「・・・はい、受け取る」
いきなり、ウサギの耳が飛び出ている袋を渡された。
「あの、リリーさん。何ですか?」
「・・・ホーンラビット・・・私、役に立つ女・・・」
「くれるのですか?でも、何故?」
「売るか、食べるか好きにするがいい」
「あ、ちょっと、待って下さい」
会話がおかしい。何か省いている。15歳、茶髪で肩まで、薄いグリーンか。無表情の娘だ。猟師さんの娘だったよな。ソロだ。
また、『希望の翼』の魔法剣士のアルキデスさんから声をかけられるようになった。
金髪のオールバック、碧眼、イケメンさんだ。
彼は商会長や貴族からのクエストを受けることを想定して身だしなみに気をつけている。
当ギルドのエースだ。
「やあ、サイトーさん。実は、剣術の稽古に付き合って欲しいのです。ローズマリーの訓練相手を募集していまして」
「私が?」
「ええ、貴方が良いのです」
「分かりました。私で宜しければ・・」
ギルドの訓練場で、女性剣士のローズマリーさんの相手をするはずが。
シュン!シュン!
「どうですか?」
「まずはお基本ですわ。剣のおすぶりからですわ!」
彼女は何でも『お』をつけるクセがある。
彼女の本名はハンナ、ローズマリーは芸名か?
剣術道場の師範の娘さんだ。
金髪を短めの縦ロールで決めている。
彼女がこんなことをしているのは、令嬢の護衛につくことを目的にしているからだそうだ。
皆、必死だ。必死になれることを見つけられない自分に絶望する。
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