第13話

「やっぱりモテ期は来ていない」


 二年A組。とある昼休み。

 俺は、窓側一番後ろの席で向かい合わせに座る友人にそう呟いた――。


 チョカとの一件があってから一週間ほどが過ぎた頃。

 彼女は軽い気管支炎だったようで、数日入院したあとで体調も戻り、今では問題なく通学しているらしい。

 なぜ『らしい』という推測の助動詞を付けるのかというと、俺はあの日以来、チョカと一度も会話をしていないからだ。

 退院してから最初の通学日も、その翌日も、その翌々日も……。そして今日に至るまで、声をかけようとする度に避けられてしまうのだ。

 最初は照れているのかとも思ったのだが、どうも様子が違う。たくさんいる取り巻きがいないときを見計らい何度か話しかけようと試みたのだが、彼女はその度に百八十度Uターンし、『お前は競歩選手か』と突っ込みたくなるくらいの速度で俺の前から颯爽といなくなるのだ。

 それは、とても好意があるようには思えない行動。むしろ真逆に思える。

 だから俺は確信したのだ。やはり俺にモデ期は来ていなかったのだと――。


 それに気づいた俺。二年A組。とある昼休み。

 だから俺は、窓側一番後ろの席で向かい合わせに座る玲央にこう呟いたのだ。

「やっぱりモテ期は来ていない」

 すると、玲央は怪訝な表情で俺に返答する。

「なんだか、デジャビュってるんだけど」

「デジャビュ?」

「美琴のときも、まったく同じこと言ってたよね。今度はなに?」

「この前のチョカとの件だよ。突然俺を学年代表に推薦したり、病気のときに俺を頼ってきたりしから、もしかして俺のことが好きなのかもって話したろ? でも、あの日以来ずっと避けられてるみたいでさ。玲央はチョカともたまに話してるけど、なんか聞いてないか?」

「チョカが圭太を避けてるって? 僕はなにも聞いてないけど」

「そっか……。でも俺の勘違いとは思えないんだけどなぁ」

「そんなに気になるなら直接本人に聞いてみたら――ってこれもまったく同じやり取りしたような気がする」

「何度も聞こうとしたんだって。でもすんごい速度で俺の前からいなくなってさぁ。挨拶すらできない状態なんだ。やっぱりお姫様抱っこがまずかったかなぁ……」

「そこじゃないと思うんだけど……」

「ん? なんだって?」

「ううん、なんでもないよ! でもさぁ。美琴のときもそうだったけど、そもそもこの数年、会話もなかったんでしょ?」

「確かに会話したのは四年ぶりだけどな」

「だったら、昔みたいに会話できるようになるには、ちょっと時間かかるんじゃないかな」

「でもなぁ。あの日は普通に会話できてたんだけどなぁ。やっぱ女心はよくわからん!」

「そんなこと言ってるけど、圭太……。また受身になってるね」

「うっ……」

「モテるのを待つのは駄目だって言ったじゃん。男なら自分からグイグイいかないと」

「そう言うけどな……好きな相手に告るって、コミュ力がレベル1の俺にはなかなかハードルが高いクエストなんだよ。でも……そうだな。頑張って勇気出してみるかな」

「……え? ちょ、ちょっと待って! 圭太って好きな人いるの?!」

「い、いや、今はいないよ! できたらの話だよ!」

「そうなんだぁ。焦った……」

「へ? なんで?」

「え? なにが?」

「いや、だから。俺に好きな人がいたら、どうして玲央が焦るんだよ」

「あ……。ち、違うよ! 焦るっていうかさ! 先を越されたら嫌だなって思ったから! 僕より先に彼女作られたら悔しいじゃんか」

「あ、ああ、そういうことか」

「そういうことだよ。それにさ……。圭太に彼女ができたら、もうこんな感じで一緒にお昼食べたり、遊んだりするのも難しくなるだろうしね」

「なんでだよ。俺が『玲央と一緒じゃ嫌だ』っていう女子を選ぶわけないだろ」

「え……」

「だから別にさ。俺に彼女ができても三人でいればいいんじゃん――ってまさか! 玲央は先に彼女できたら二人で昼休み過ごすつもりだったのか?! 俺はどうすんだ! クラスでぼっちの俺は、誰と飯を食うんだぁ! この裏切り者!」

「あ……あははは! ごめん! そんなつもりないよ。僕も圭太と同じ考えだから」

「そうなのか? ならよかったけど……。でもお互い彼女ができたら、四人で飯食ったり遊んだりすることになるのか。それで屋上行ったりなんかして青春するのか。なんかリア充ラブコメっぽくて、ちょっとなぁ」

「そ、そうだねぇ。僕たちに似合わないねぇ。でもさぁ。それが嫌だったら、いっそのこと僕と圭太が付き合ったらいいんじゃない? それなら今と同じだし!」

「お、おお……。そうか! そうだな! 俺たちが付き合えば解決だぁ……あ?」

 そこで俺たちは周りの冷たい視線に気づく。

 ふざけて大声でお付き合い宣言をしている男子二人に、皆が引いているようだ。

 そして俺たちはお互いに顔を真っ赤にしながら、皆に聞こえるように『冗談言うなよ。あははは……』と、わざとらしいフォロー入れるのだった。

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