第3話

 大島が離れたあと、俺は玲央を睨みながら『いったい今のはなんだったんだ』と目で訴える。すると玲央は弁当箱を片付けながら、悪びれる様子もなく返答した。

「あのさぁ。圭太。あんなリア充たちとオケ行って本当に楽しいと思う? 途中で辛くなって疲れきって後悔するのが目に見えてるよ。デジ研で遊んでる方が気が楽じゃない?」

「そ、それは……。そうかも……」

 ――玲央の言ってることは痛いほどよくわかる。

 以前にも誘われて男数名でゲーセン行ったりカラオケ行ったりしこともあったが、結局みんなのノリについていけず、いつも玲央にお願いして途中で一緒に抜け出してたっけ。もし親睦会に行ってたら、また玲央に迷惑かけてただろうな――。

「それとさぁ。さっき僕が言ったこともう忘れたの? 自分が本当に好きになった相手に告白してOKもらう。これがモテる男ってことだから。なのにモテない男は、ありもしない告白を待ったり、声かけてくれた女子を簡単に好きになったりしちゃうんだよね。それで将来、本当に好きになる人が出てきたらどうする? まあ、圭太の自由だけど……」

「わ、わかったよ。確かにそうかもしれないな……。目が覚めたよ、師匠!」

「……師匠? ってなにそれ。もしかして僕の二つ名?」

「え? い、いや違う! じょ、冗談だよ……」

「ああ、冗談ね。ごめん、突っ込めなくて」

 ――でも、玲央はどうして俺なんかとずっと一緒にいてくれるんだろう。見た目は女子みたいだけど、それで男女問わず人気もあるみたいだし社交的だし優しいし……。友達を増やそうと思ったらいくらでも増やせるだろう。それに彼女を作ろうと思えばいつだって……。

 たまたま幼稚園で知り合って仲良くなったけど、そうじゃなかったら俺なんか相手にされなかったかもな――。


「はぁ……。玲央が彼女だったらな……」

「え……」

 ――あ。しまった。心の声がつい――。

「い、い、いやいや違う! 冗談だから!」

「じょ、じょ、じょ、冗談?! だ、だよね! マジだったらキモいよ!」

「れ、玲央の方こそ、『え……』とか言うなって! 突っ込むところだろ!」

「あ、あははは! そ、そうだね。ごめん、ごめん。一瞬マジかと思ったから!」

「そ、そんなわけないだろ! いくらお前が美人でも――」

「え……」

「あ。い、いや、だから違うから! 冗談だし!」

「な、な、なんだよさっきから! わかりにくいよ!」

 するとそこへ、野太いおっさん教師の声が響く。

「おい、もう昼休みは終わっとるぞ! 御剣! 早く自分の席に戻れ!」

 叱られたのが恥ずかしかったのか、慌てて自席に戻る彼の顔は真っ赤に見えた。

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