第13話 お料理バンバンバン♪

「そらちゃんが男の子になってから1ヶ月経ったけど、本当にいいのかな」


ほんの少し前まで、仲の良い幼馴染の女の子だった。

その子が、突然男の子になってしまった。

普通に考えれば、有り得ない事が起こっている。

まるで、ライトノベルの世界のような現象が起こっている。


「本当は、ずっと不安で不安で、気が気じゃないかも知れない」


一番つらいのは本人だ。

性別が真逆になったのだから。

幼馴染として、何か出来ないかと考える蓮姫。


「よし、決めた」


蓮姫は決心する。


「美味しい料理作って、そらちゃんの胃袋掴んで私に惚れさせるんだああああああ!!!」


と、欲望丸出しで新しい事に挑戦する決心をした。


「おかあさ~ん!」

「どうしたの蓮姫?私は猫型ロボットじゃないのよ」

「料理教えて!」

「急に何?サスペンスドラマで見た凶器が包丁だったことから、料理がトラウマだとか言ってたくせに」

「ゴメン、あれは料理の手伝いさせられるのが面倒だから、包丁が怖いという名目で料理を拒否してたの」

「そうだったのね。でも、大丈夫?必死で練習したカードマジックを友達に見せた時、2秒でタネがバレたほど不器用なのに」

「大丈夫!今度は失敗しない!」

「そう。じゃあ、まずは包丁の基本から覚えないとね」


母は、優しく丁寧に包丁の使い方を教えてくれる。

教えてもらったやり方で、さっそく包丁を使う蓮姫。


そして、


「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!」


さっそくケガした。

指先から、ぴゅーっと血が出る。


「痛い痛い痛い痛い!!」

「いきなりケガしてるじゃない。はい、マキロン」

「ありがとうお母さん。やっぱり、包丁は奥が深いね」

「ただケーキを縦に切るだけなのに、どうしてそんなケガをするのよ」

「あぁ、ケーキにイチゴソースまぶしたみたいになっちゃった」

「グロい表現しないでね。これはショートストーリーじゃ無いのよ」

「メタい発言してるね、お母さん」


茶番はさておき、蓮姫の不器用さは桁違いだった。

このままだと、蓮姫の皮膚が片っ端から削れていきそうだ。


「お母さん、包丁使わないで出来る料理無い?」

「そうねぇ、ちょっと考えてみようかしら」


蓮姫は、包丁を諦めて別の作戦に出た。

というか、包丁が使えない時点で詰んでいる。


「じゃあ蓮姫、これならどうだろう?」

「なになに、何かいい方法あった?」


母は、蓮姫に包丁を使わない料理方法を教える。



そして翌日、



「そらちゃん、今日はお弁当作ってきたんだ!」

「えっ、蓮姫が料理したの?」

「そうだよ!!そらちゃんのために作ってきたんだよ!」

「すごい!家庭科の授業でサラダ油と間違えてハイオクガソリンを入れてた蓮姫が、

まさかお弁当を作ってくるなんて・・・」


そらは驚愕した。

まるで、親に「あなたは実の子じゃ無いのよ!」と言われた人と同じぐらい驚愕した。


「はい、コレ!」


蓮姫は、嬉しそうにお弁当をそらに渡した。


「じゃあ、開けるね」

「いいよ!」


いったい、どんな弁当が出てくるのか、ちょっとワクワクしながら弁当箱のフタを開ける。

すると、中には以外にも普通な弁当が入っていた。


「へえ、以外と中身しっかりしてるね!」

「でしょ!」

「じゃあ、遠慮なくいただこうかな。最初は、このタコさんウインナーにしようっと!」


そして、箸でタコさんウインナーを掴もうとした。

すると、見た目がくしゃっとした。


「あ、あれ?」


ぐしゃっとした弁当。

よく見ると、見栄えの良かったそれは、ただの写真だったのだ。


そして写真をよけてみると、下から梅干し1つが中央にある、白飯が出てきた。

日本の伝統的お弁当、日の丸弁当だ。


「あの、蓮姫・・・」

「すごいでしょ!頑張って日の丸弁当作ったんだよ!」

「あの、なんで写真を?」

「あれは、少しでも食欲をそそるために美味しそうな写真を上に乗せて、

その味を想像しながら白飯を食べる。実に画期的なお弁当だよ!」

「そ、そうなんだ・・・」


昔話にあった、うなぎの蒲焼の匂いをおかずに飯を食べていた男の話をヒントに、

蓮姫の母が考案した弁当である。


「さ、遠慮なく食べて!」

「う、うん・・・」


優しいそらは、ちゃんと食べきった。

梅干しを駆使し、食べきった。

そして、美味しそうなおかずの写真は、何一つ意味をなさなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る