第36話 閑話Ⅳ②
(本当に、本当に素晴らしかった……!)
まだ結婚式の余韻が残っている。
現在は式も終わりパーティーへと移っていたが、サラマリアはわかりやすく浮かれていた。
先ほどスルトザ兄様から参列者に向けた挨拶があったが、内容が頭に入ってこなかったくらいだ。ずっと、スルトザ兄様とナリア様の幸せそうな姿を見ていた。
「サラマリア、今日の主役たちがこちらに来るみたいだよ?」
殿下にそう言われて、やっと気づくほどだった。
(ダメだ。護衛としてしっかりしないと)
殿下の方を見ると、こちらを見て笑みを浮かべていた。はしゃぐ子供を見るような保護者的な表情をしている。
「少し、冷静になります」
「ん? いやいや構わないよ。今日は特別な日だからね」
そう言ってくれているが、やはりここは護衛としてしっかりせねばならない。警備は万全とはいえ、多くの人がいる会場なのだから。
気合いを入れ直していると、スルトザ兄様とナリア様がみえた。殿下に挨拶するために来たのだろう。
「セルフィン殿下、本日は私どもの結婚式に参列いただきありがとうございます」
「とても素晴らしい式だったよ。それと、急に参加すると言って悪かったね」
殿下が謝っているが、それは私がわがままを言ったからだ。
「いえ、殿下のご配慮のおかげで、妹に晴れ姿を見てもらうことができました。感謝申し上げます」
「これくらいはなんてことないさ。サラマリアにはいつも助けてもらっているからね」
そう言ったあと、ナリア様の方に向く。
「ナリア様、本日は誠におめでとうございます」
「あ、ありがとうございます。セルフィン殿下」
ナリア様は緊張しているようだ。
貴族といえど、皇族の方と話す機会などそうそうないので仕方ないことだろう。
「アカデミーで優秀な成績を修めたと聞いています。今は南部で医師として活動しているとか。今後の活躍に期待していますね」
「そこまで知っていただけているとは……!ありがとうございます。帝国の医療の発展のため、力を尽くします」
流石は殿下だ。ナリア様のことも事前に調べていたのだろう。ナリア様が恐縮した様子で頭を下げている。
「ふふ、堅苦しい挨拶はここまでにしようか。サラマリア、君も話したいことがあるだろう?」
そう言って殿下は一歩下がり、話をする機会をくれた。
「あ、あの!とっても、とっても素敵な式でした!」
もっと伝えたいことがたくさんあるはずなのに、言葉にできなかった。でも、正直な気持ちは伝わったと思う。
「ああ、ありがとうサラマリア。ナリアと会うのはこれが初めてだな」
スルトザ兄様が、そう言ってナリア様を紹介してくれた。他の家族は会ったことがあるそうだが、私は初めましてだ。
「初めまして、サラマリアさん!私、とても貴女に会いたかったの!」
ナリア様が嬉しいことを言ってくれる。
フィナから聞いていた通り、優しい人みたいだ。
「私もです!これからよろしくお願いします。ナリア様」
「あら、様なんてつけなくていいのに。これから私たちは家族になるんだもの」
そうだ、私たちは家族になるのだ。
こんなに喜ばしいことがあるなんて。
「それでは、その、ナリア
初めて話したところなのに、少し図々しかっただろうか。でも、私はナリア義姉さんと仲良くしていきたいのだ。
そんなことを考えていると、ナリア義姉さんがおもむろに私の手を両手で包んだ。
「ええ!ぜひそう呼んでね? スルトザから聞いていた通りなんて可愛いのかしら!」
兄様はどんな話をしたというのだろうか。
ただ、ナリア義姉さんはすごくいい人みたいだ。
「ありがとうございます!私のこともサラとお呼びください」
「これから仲良くしていきましょうね、サラ!今度ゆっくりお茶でもして、お話ししましょう」
「はい!よろしくお願いします」
ナリア義姉さんとのお茶会はとても楽しみだ。
アカデミー時代のスルトザ兄様のことも聞けるだろうか。
「それでは、他の参列者への挨拶もあるので失礼します。ごゆっくりお楽しみください。サラマリア、また会おう」
そう言って、スルトザ兄様とナリア義姉さんは別の場所へ向かった。
「殿下、この結婚式に参加できて本当に良かったです。ありがとうございました!」
殿下のおかげでこんな素敵な式に参加できた。
調整してくれた殿下には感謝している。
「何度も言っているが、これくらい構わないさ。それに、私としても良いものが見れたよ」
殿下が柔らかく微笑んでいる。
来て良かったと思ってもらえているのなら、私も嬉しい。
「とても、素敵でしたね」
「ああ、本当に」
幸福そうな二人の姿を思い出す。
これからもっと、幸せな日々を過ごすのだろう。
私もいつか、あんな風に……。
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※ここまで読んでいただきありがとうございました!
次話から第二章に入ります!
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