第11話 閑話Ⅰ


(あのサラマリアが、専属護衛に、か……)


 シュトロエムは感慨に耽る。

 サラマリアから専属護衛になるという決断を聞き、既に第一皇子殿下に向けて封書は送った。


 心配ではある。

 あの子の才能は異質だ。それがどのように作用するのかは、父親である自分にもわからない。


(まあ、あの第一皇子ならば、なんとかしてくれるだろう)


 あの告白には思わず笑ってしまったが、真剣さは十分以上に伝わってきた。あんな熱量でこられては、頷く他はない。


(なにせ、惚れてしまったと言われてはねぇ。この私が反対できるはずもない)


 自身の若かりし頃を思い出して苦笑する。お義父とう様もこんな気持ちだったのだろうか?


「さて、後ろ盾になると言ったからには動かなければね。ヘルマ、お義父様と連絡をとろうと思うんだけど、いいかな?」


 隣にいたヘルマに声をかける。


「それは構いませんよ。父上も久々に孫に会えるとなれば喜ぶでしょう」


 数年前までは、定期的に顔を出していた。元気にしているだろうか?あの豪快な御仁は、セルフィン殿下のことをどう思うだろうか。


 


「……旦那様。クレハのことは、サラマリアに話してやらなくてよろしいのですか?」


 今後の動きを考えていると、ヘルマが問いかけてきた。


 クレハ。

 サラマリアとフィナフラの母であり、十年ほど前に亡くなった。遠い東の国の姫君であり、<舞姫>と称されるほどの踊りの名手だった。奇妙な巡り合わせにより、妻となってくれた太陽のような女性だった。


「……そうだね、話してもいい頃合いかもしれない」


 サラマリアの持つ才能と、クレハの生い立ちは無関係ではないだろう。ただ、話すことに躊躇いを覚えている。


「クレハは知られることを望むだろうか?話すことを許して、くれるだろうか?」


「ふふ、あの子であれば、笑って許してくれると思いますよ。優しい子でしたから」


 ヘルマが優しい目をして語っている。クレハのことは妹のように可愛がっていた。


「そうだね、あの子なら笑ってそうだ」


 ちょっぴり怖いですけどね、なんて言っている姿が目に浮かぶ。


「折を見て、話すことにするよ。ヘルマ、君にも同席してもらいたい」


「ええ、もちろんです」


 妻はいつまでたっても頼もしい。家族のこととなると、途端に弱気になってしまう自分も、いつまでたっても変わらない。


「フィナのことも、すまないが頼んだよ」


 家にいないことが多い自分が恨めしい。結果的に家族を守ることに繋がるとはいえ、外交官という道を選んだことに間違いはなかったのかと考える日は多い。サラとフィナのことがあった後は、申し訳なさでいっぱいだった。


「ええ、それもお任せを。……旦那様、フィナは強く在ろうとしていますよ」


「……そうだね、サラの件を伝えた時に、強くなったのだと実感したよ」


 不安そうではあった。だが、最後には強い目をして自身の力で生きていくと宣言していた。子供達の成長には驚かされるばかりだ。


「さあ、忙しくなりそうだ。上の三人にも伝えておかないとね」


 スルトザは帝城に勤めているため、サラマリアをさりげなく支えることも可能だろう。カリアスは遠征に出ることもあるが、基本は帝都にいるため、助けを求めればすぐに駆けつけるはずだ。ミリサントラはどこにいるかわからないが、妹を溺愛しているあの子が力になってくれることは間違いない。


「まったく、皆頼もしく育ったものだよ」


 そして、家族を愛する優しい子たちに育ってくれた。才能などなくとも、それだけで十分だ。


 マンノーラン家に幸福あれ。


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