第17話 あとは知らん

 クダニドのワゴン車に乗って俺は無事、退院した。


 

 海沿いの道路を走る。


 ニョダクは『養子』となった河童と何度も何度も頭を下げた。


 華佗にも同乗を誘ったが、中国の名医曰く「ワシは孫悟空から分けてもらったら筋斗雲で次の往診に行く」とニョダクたちと一緒に見送った。


「帰りにコンビニでアイス買おうや」


「ぼく、チョコミントがいい」


「じゃあ、俺はモカアイス」


「はいはい、町に入ったら買うから乗りなさい」


 クトゥ坊たちを先導するクダニド。


 それを尻目に、俺はニョダクと別れの挨拶をした。


「世話になった」


「ううん、また、遊びに来て。たまには、他の人に触れあいたいから……」


「暇だったらな……」


 河童の小僧も頷く。


 海辺で何かが鳴いた。


「あ、カモメだ」


 河童の小僧が海を見た瞬間。


 俺の頬だけに風みたいな唇が当たった。


 そりゃ、俺だって男だもん……


 わずか数秒でも硬直した。


 体が熱い。


「ありがとう」


 彼女も顔も赤い。



 今、俺の脳と頬には風のような感触が残っている。


『いや、お前にはクダニドが……というか、妻は?』


 理性がいくら反抗しようと俺は男なのである。


「いい診療所だったでしょ? あと、どれぐらいで水没……最悪、消滅するかもしれないわ……正直なことを言えば、今回の温情が逆にどれほど残酷になるか……想像できませんわ」


 ハンドルを握っているクダニドがため息交じりに言う。


「それでいいんじゃないですか? それ以上は俺たちは踏み込めない彼女らの領域です」


 俺はそう答えた。


 経験上、深入りすると火傷をする……なんて。


 

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