第14話 あの時の味

 俺は日々の労働で疲れていたのだろう?


 目が覚める。


 生きているときには日の出とともに起きていたのに、この世界に来てからは休日などは昼まで寝るようになった。


 自堕落になったものだ。


「おお、目が覚めたな……」


 横目で見ると白衣姿の華佗がいた。


「寝ているついでに植毛をしておいた。気分は、どうだ?」


「まあ、普通です」


 欠伸が出た。


 と、異物感がある。


 植毛のせいではない。


 後ろのニョダクは完璧に笑い堪えている。


--あのチリチリパーマ以上の変な髪形があるのか?


 鏡代わりに、ややくすんだ窓を見て、真っ先に俺が爆笑した。



 正午近くになり、クダニドが運転する車でクトゥルフたちが来た。


「お、カッコええやんけ」


 幼体のクトゥルフが俺に言う。


 俺の頭には珍しくバンダナを付けていた。


「ねぇねぇ、クトゥちゃん。家庭科室行こうよ」


 同乗していた者たちが旧校舎・現治療院の前に集まった。


 クトゥルフとその友達たちの手にはスーパーの袋が下げられている。


「何をするんです?」


 老婆姿のクダニドが笑って答えた。


「ああ、彼らが『いつも美味しいご飯を作ってくれるから、今日は、そのお礼』ってみんな昨日から料理本読んで張り切っているんです」


 そして、俺の耳元で小さく言った。


「今回の件は、天候管制センターの誤作動ということになりました」


 まあ、ゼウスたるものメンツもあるわなぁ。


 俺は変な同情心が沸いた。


「ですから、今回の請求などはこちらが負担しますし、待遇改善も考えます」


 ……ここも地上の世界も隠ぺい体質は同じのようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る