第12話 泣いた河童の話
「この光は、かつてあった町の光なの」
「……かつて?」
「そう、今から千年ぐらい前には、ここは丘の上で下には町があった……中央界とか、まだなかった時よ」
ニョダクは、いつの間にか俺の横にいて泣いていた。
「ある時、ある宗教同士の対立があったの。それは些細なことだったんだけど、事が大事になって、ここにいた子供たちにも召集令状が来たの」
戦中の赤紙みたいなものか……
「ものすごく出来の悪い河童がいたの。妖術もできない、水泳も得意じゃない……でも、とても優しい子だった。だから、真っ先に名乗り出たのよ。『おいら、へいたんさんになる』って……」
ニョダクはポロポロ涙を流した。
「……最後の日に、私のところに来て『かれえらいす、たべさせて』って……その時、私、料理が下手だったの。でも、あの子は美味しそうに食べたの。『おいら、こんなおいしいかれえらいす、たべたことねぇ』。それから、『おいしいよ、おいしいよ』って泣きながら言うんだもの……」
俺は彼女の肩を抱きしめた。
戦争に勝者なぞいない。
仮に生き残っても、彼ら・彼女らに大きな心の傷を負わせる。
ニョダクは泣いた。
でも、俺は知った。
眼下に広がる海は、その争いごとが均衡を少し破って出来た綻びであり、光は、その跡なのだと……
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