第8話 「あなたは、最後に誰といたいですか?」

 俺は殺すことしかできない。


 幸か不幸か、俺はそれで生きていた。


 それ以外の生き方を知らない。


 クタニドは俺の顔を見ていた。


 そして、納得したように言った。


「確かに、そうですわね……私ごとき末端がいくら終末を心配してもしょうがないわですね」


「そういうことです」


 と、今度は彼女が悪戯っぽい笑顔で聞いた。


「じゃあ、あなたは最後に誰といたいですか?」


 

 俺の妻は先に死んだ。


 俺が冷たく当たったせいだ。


 それでも、文句ひとつ言わなかった。


 今、彼女は桜の精と同化して、この世界を見ている。


 時々、桜の里に行くのは、彼女を感じるためだ。


 言葉も記憶もあいまいになった彼女。


 でも、俺を包む包容力やぬくもりを感じることができる。



 一時期は、クタニドにも惚れたこともあるのは事実だ。


 でも、彼女は飲み友達だ。


「そうですなぁ、三人で眠って最後を待つというのも両手で華でいいですなぁ」


 クタニドは呆れかえった顔をした。


「あら、贅沢」


「男は基本贅沢ものですよ」


 そこに賑やかな声がした。


「春平。怪我、治ったんやってな。見舞いに来たでぇ!」


 そこには幼体のクトゥ坊たちが大挙してやってきた。


「おう、ありがとう」


「ねぇねぇ、その『ターバン』みたいな包帯、似合わないね」


「取っちゃおうよ!」


 俺のベットに近づくや否や彼らは器用にベットと俺の体に上り、頭の包帯を取った。


 その瞬間、その場にいたクタニドも幼体たちも爆笑した。


 鏡を見ると、石綿スチールウールのようなチリチリパーマの俺がいた。

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