第5話 俺の彼女が見舞いに来た

 ニョグダがパタパタと布草履を響かせながら、木製の廊下を駆けていく。


 入れ替わる様に、一人の、俺と同じ歳ぐらいの老婆がお馴染みのスーツ姿で入ってきた。


 手には見舞い用の花束と四角い風呂敷を携えていた。


「春平さん、今、大丈夫ですか?」


「ええ、暇ですよ」


 俺が苦く笑う。


「……仕事はどうしたんですか?」



 彼女は中央局で高級官僚だ。


 俗に言う、エリート様だ。


 俺のような俗物とは違う。


 でも、ある事件を通して知り合い、飲み友達になった。


『ざる』の彼女に『わく』の俺。


 仕事とは関係ない話をするのが楽しい。



 少なくとも、一人で自棄酒飲んで落雷に当たるよりマシだ。



「こちら、急いで作ったものでお口に合うといいのですが……」


 彼女が、クタニドがベットに備え付けられた長細いテーブルに風呂敷を置き、結び目を解いた。


 綺麗な漆塗りのお重。


 その中身は……おはぎだった。


 こしあんというのが、俺の好みを知っている。


 動作確認を兼ねて一個失敬する。


 口に運び、一口。


--うめぇ


 感想がこれだ。


 餡子は豆からの手作り、中のもち米も半殺し状態。


 菓子屋などのおはぎも美味いが、こういうシンプルなものもいい。


 気が付けば、全て俺が食べ切り、彼女とお茶を飲んでいた。


「大変美味しかったです」


「それは嬉しいですわ……」


 だが、笑顔だったクタニドの顔に影が入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る