第5話
結論から言うと私の予感したことは何もなかった。ただ遠くから見れば楽しく談笑する二人の姿があるだけ。二人はその後何事もなくカフェを出て別れた。
肩透かしをくらった私は今さら練習に戻ることもできないので、意味もない一日を自宅で過ごす羽目になった。
彼はその後もライブに足を運んでくれていた。でも結局満足した様子はないままだった。しかし、ライブ外で都度彼を見ることが増えた。土曜日の12過ぎ。私が丁度レッスンに向かう途中だ。その時間帯に彼はいつも駅にいた。前に見た女の人と歩いていたのも、また違う女の子とも歩いていたのも私は見ていた。
決まって彼が連れている女の子は化粧が濃く、私と同じくらいの女の子で、もしかして彼の日常の紛らわし方ってパパ活と言われることなのかも、とも思うほどだったが、彼からは微塵もそんな気は感じない。私の中でそう当てはめるには彼には似合わな過ぎたのだ。
まあだからといって可能性は捨てきれないけど。
「ユウヒ最近大丈夫か?」
「え?」
「いやレッスンを休む頻度増えたから、何かあったのかと思って」
さすがに休み過ぎたか。
彼を駅で見つけるようになって、私のストーキングはエスカレートしたと思う。彼を駅で見つければ迷うことなく追うようになってしまった。その女の人と何をしているんだろう、どうしていつもバラバラな女の人と会うんだろう、と。
遂には彼の家まで見つけるほどになってしまい、その日は丸まる彼への執着で費やすほどに彼に興味を示していた。
「何? 恋でもした?」
メンバーの一人がそう茶化してくる。
でも、もしかしたらそんな感情に似てるのかもしれない。
「かもね」
と私は下手な笑みを向けてみた。
だって、私もああやって力強く抱かれたいと思っていた。その思いは日に日に膨れ上がるほどに。
「ええ?!」
いきなり一人の子が大きな声をあげた。
「また違うグループの子がやめたみたい」
「最近多いねそれ、てか本当に脱退なの?」
「わかんない。でも、連絡つかないみたいだよ」
話は最近同業者である地下アイドルグループで相次いで人が脱退していっていることだった。別に可笑しな話でもない、他にやりたいことが見つかったとか、これじゃあ生計が立てられないとか、やめる理由は様々あるし、安定したものでもないこの業界じゃその話は尽きない。
けど可笑しいのは連絡の一つもなく脱退ということだった。
「なんか怖いね」
「病んじゃったんじゃないの? そういう子、この業界じゃ多いし」
まあそれは一理あるかも、と話はまとまった。
どんな理由で始めたかはわからないが、曖昧な自分のこの立ち位置に自信を持てない子は少なからずいるはずだ。事実私も未だ自身ももなくアイドルをしている。
私にはこの話がただの他人事のようには思えなかった。
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