第4話

 さて、私の身の上はここまでにして……このライブハウスで私は彼と、出会ってしまったんだ。

 彼は私のファンの子に誘われてきたと言っていた。サラリーマンの服を着ていたけど、他のサラリーマンとは違うような風貌でとても様になっていると言えばいいか、逆にその服が分不相応な感じがした。

 彼はあまり私たちに興味を示していないようでこの箱のなかで彼だけが、明らかに不似合いな人生を歩いていると一発で分かった。

 少し話して理解した。彼は現状に満足していないんじゃない、あえてその不満足さを味わっている。まだアイドルを始めて一年ほどの私でも、何度も人と接することで直感的にその人の人生が見えるようになっていた。

 彼はその後も何度か私たちのライブに足を運んでいたけど、彼がここにきて満足する瞬間はきっと訪れないだろうと思った。


「何あの人」


 ライブ後の楽屋で、メンバーの一人がそう漏らした。

 他の人たちもそれに同調する。


「チェキも撮らないし、ライブもなんか微妙な顔してたし何しに来てるんだろうね」

「私も思ってたそれ。その割に何度か来てるもんね。顔はかっこいいんだけど」

「結局顔かよ」


 さすがにあそこまで目立たないでいれば逆に目立つものだろう。あんな小さな箱で、表情も崩さずにステージに顔を向ける彼を思い出す。彼からは一切楽しいとかそういった感情を感じない。ただ淡々と品定めのような眼だけが光っていた。

 その目に、私は徐々に目が離せなくなっていた。その目には何が写っていたんだろう



 レッスンに向かう駅で偶然彼を見つけた。

 仕事がないのか、今日は私服姿だ。それでも気品あふれるような風貌がスーツよりも紳士的で堅い雰囲気を醸し出していた。

 そしてその隣には、女性の方がいた。

 私と同じくらい年齢だろうか。少し強いメイクをしていて、髪の毛の色も目立つハイトーンのセミロング。言い方が悪いが、なんだか地下アイドルでもやってそうと言えば悪口になってしまうだろうか。

 彼女はとても外見に自信がない私と似ているようだった。

 もしかして彼女さんかな。それとも兄妹とかかな。でも手を繋いでいるところを見るに彼女さんだろうか。別に誰が何をしようかは気になったことなんてない。その感情を私は知らなかったから。それでも、あの人に特別な人がいるというのは、なんとも気になる。

 これは本当に好意ではない。それは単純な興味からくるもので。


『すみません、今朝熱が出たため今日は欠席します』


 気が付けばグループにそうメッセージを送っていた。

 まさか私がストーカー紛いの行動に出るとは。それも地下ではあるがアイドルで、どちらかといえばされる側の私が。

 被っていた帽子を深くかぶりこみ、降りたこともない駅で降りた。それほど人が多くないため見失うことはないが、バレる可能性も十分にあるため遠目から追った。

彼は私に気づく様子もなく、その女の子と駅下の喫茶店へと入っていった。


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