第3話


 地下アイドルというのは案外忙しいものだった。

 ライブだけやるなんてことはもちろんなく、それに至るレッスンや人間関係はとてもややこしかった。

 最初は新メンバーということでそこそこ話しかけてもらえたが、私のコミュ力のせいなのか、いつもレッスンでは一人になるし、話しかけられたかと思えばどこかのアイドルの愚痴ばかり。正直私にはどうでもいいことだった。

 それよりも、元来運動して来なかった私には踊って歌うなんてハードルが高かった。踊れば数秒で息切れした。歌も声が聞こえないと何度も注意された。

 こんなことで本当に私にアイドルが務まるのだろうか。これにファンと交流しろなんて言われたらもう不安でしかなかった。


 けど、私はその世界にどんどん浸かっていった。


 これ限りの一回きりのライブ。

 そこそこのお客さんの目は当然新参者の私に向いた。緊張は意外にもない。それでもレッスンとは違うステージ、照明、歓声。それらが肩に重く圧し掛かる。

 いよいよ始まる。ふとステージ下には友人が笑顔で手を振っていた。



 何とか無事に終えた。自分的にはそこそこの出来だと思うがどうだっただろうか。

 チェキ会と言われるファンとアイドルが写真を撮る交流の時間、真っ先に私の列に並んできたのは友人だった。


「ユウヒめっちゃ可愛かったしよかったよー!」

「ありがとう。上手くできてたかな?」

「うん! ばっちりだよ」


 とチェキを撮ってもらった。

 その後には何人もが私の列に並びそれぞれ感想をくれた。


「めっちゃよかったよ」

「可愛いね!」

「本当に初めて?!」



 ライブを終え、こうしてファンと交流して感じた。

 この人たちは私と一緒だ。つまらない日常に辟易しながら、その変え方をしらない。だから手軽なこのライブハウスに足を運んでその人生を肥やしに来ている。

 だからきっとこの人たちは、私たちの歌や顔をあまり重要視していないし、推せる人間がいるという現状に満足しているんだろう。それは平凡な日常を送るよりも楽で、楽しいものだから。

 そしてそんな私も、ライブを終えて歌い切った自分に、肯定してくれるファンに満足していた。この関係性が地下アイドルとファンを繋げている。満たされないもの同士、お互いの日常を浸し合って。

 そう思うことで私は自然とファンの前では笑顔を向けて話すことができた。


「お疲れ様。どうだった初ライブは?」

「とても、楽しかったです」

「確かに楽しそうだった。で、どうする? 君がよければまだうちにいてほしいんだけど」


 プロデューサーのしてやったりの顔が癪に障る。

 でもギャラも悪くないし、人間関係もそこまでひどいグループではないおまけにバイトはクビになったばかり。それに、私は現実逃避の近道をこのステージで見つけてしまった。


「続けます」

「よろしい! じゃあこれからもお願いね」


 なんだか全て見透かされていた気がするが、まあいい。

 こうして加入したグループで私は、何度かライブを遂行していった。来るファンの顔ぶれは変わらないが、逆にそれがいい。その方が、特別感と結束力生まれる気がした。

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