第2話
私には好きな人がいる。偶然出会ったその人は私の中でとても異質な人で、といっても何も秀でていたわけではなかったと思うのだけど、その人が纏うオーラ? というものに私は魅かれた。
別にその人は特別な人ではない。有名な企業に勤めるような優秀なエリートサラリーマンでもなければ社長さんでもないし、ましてや誰もが振り返るような芸能人でもスポーツ選手でもない。ただ一般の企業に勤める平凡なサラリーマンだった。
それでも美形と言われるほどではないが顔はとても整っており、そこそこイケメンではあった。一般のサラリーマンといったが営業成績がよく会社でも一目置かれているらしい。とても聡明で賢く、その癖人当たりがよく社交性もピカイチだと同僚たという男性から聞いた。
おかしい。手を伸ばせば前例を挙げたような職種には余裕就けるような彼が、ただただ一般企業に勤め、普通のサラリーマン生活を送るなどどうしても信じられない。
まるで妖怪が一般社会に溶け込むような、それとも宇宙人か。彼にはそんな不自然さが感じられた。そして私はミステリアスさに惹かれるようにますます彼が気になっていた。
まるで、私とは真逆だ。何でも持っているようで何もない振りをする彼と、何ももってない空っぽな私。だから私は彼に出会ってしまったんだろうか。
彼との馴れ初めを話す前にまず私の身の上を知ってもらいたい。長くなるが、これを人生に当てはめると案外短いものだろう。
【蔦ユウヒ】現在19歳だと思う。性別は女性で、大学生と言う名のニート。
ただただ平凡な人生を渡り歩き、両親には平凡に愛されていたとは思うが、幸せな家庭かと聞かれれば首を傾げるほどだった。
彼氏もいなければ友達もそれほど多くない。
いつもこんな紹介文で適当な挨拶をすると大抵の人は「なにそれ」と笑うか、「そんな人生で楽しいの?」と自分の人生観を説いて気持ちよくなるかだった。そんな誰も肯定しない人生を私は歩んでるんだという自覚もあった。
楽しいかどうかで言えば間違いなく楽しくはない。それでもじゃあ不満かと聞かれればそれもまた違った。
楽しくはないけど不満ではない。それに何が楽しいかが正直わからない。私の中の楽しい時間というものがどれかわからないのだから、この人生で何が楽しいのかを私は知らなかった。
そんな時だった。
「やってみない?」
友人の誘いで地下アイドルのライブを見に行った時、たまたまプロデューサーの人に声を掛けられた。それは私にアイドルをやってみないか、という誘いで最初は冗談じゃないと思った。
「私には無理です。歌も踊りもできないし、顔もそんなによくありませんし」
「そんなことないって、ユウヒ絶対やった方がいいよ! 一回やってみてよ」
隣の友人が私よりも食いついた。隣でプロデューサーも首肯している。
「うん是非やってほしい! 悪いようにしないからさ」
「でも……」
「お願い! 一回でいいから出てよ! 私みたい!」
どうして私よりもはしゃいでいるのか。やるのはめんどくさいけど、まあ一回ならいいか。最近バイトもやめてお金もないし暇を持て余していたしなと、私はその誘いに乗った。
「わかりました。一回だけならやってみます」
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