第3話
私の父は有名な作家だ。人付き合いが苦手な父は覆面作家として活動しており、正体を知ってるのは私と担当編集者の本居さんのみ。
くだらないヒューマンドラマを題材にした作品が多く、爺さん、婆さんからの支持が凄い。全く若者向けではなく、根強い支持を獲得しているが大衆向けではない。私は父の作品が大嫌いだ。一丁前に家族愛なんて描きやがって。
父は作家としては高い評価をされているだろうが、父親としては最低だ。
よくある典型的な嫌われる父親。私の学校のイベントには来なかったし、いつも書斎で家族よりも原稿と向き合っている。いわゆる仕事一途な人間なのだ。誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントもくれなかったし、私が傷ついていたことも気づかなかった。挙句の果てには仕事の取材に行ったせいで母の死に目にも会えなかった。
でも、帰った日、父の背中を久し振りに見て、当たり前だけど父も老けたな、と思った。もうすぐ還暦だったっけ。父の背中はこんなに頼りなかっただろうか、老眼鏡なんてつけていただろうか、こんなに白髪があっただろうか。
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