第3話 いま
私の父は有名な作家だ。人付き合いが苦手な父は覆面作家として活動しており、正体を知ってるのは私と担当編集者の本居さんのみ。
くだらないヒューマンドラマを題材にした作品が多く、爺さん、婆さんからの支持が凄い。全く若者向けではなく、根強い支持を獲得しているが大衆向けではない。私は父の作品が大嫌いだ。一丁前に家族愛なんて描きやがって。
父は作家としては高い評価をされているだろうが、父親としては最低だ。
よくある典型的な嫌われる父親。私の学校のイベントには来なかったし、いつも書斎で家族よりも原稿と向き合っている。いわゆる仕事一途な人間なのだ。誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントもくれなかったし、私が傷ついていたことも気づかなかった。挙句の果てには仕事の取材に行ったせいで母の死に目にも会えなかった。
でも、帰った日、父の背中を久し振りに見て、当たり前だけど父も老けたな、と思った。もうすぐ還暦だったっけ。父の背中はこんなに頼りなかっただろうか、老眼鏡なんてつけていただろうか、こんなに白髪があっただろうか。
実家に帰ってから数日の間は相変わらず不規則な生活から抜け出せなかった。夜は謎の生き物の鳴き声が聞こえて眠れず、昼とか3時まで眠っていた。
それでも父はマイペースで私のことには何も構わなかった。かなりありがたかった。
昼の日差しは燦々としていて私の部屋を照らす。私と部屋は17年前から時が止まっている。今は解散したけど昔好きだったバンド、あんなにライブに行くことを夢を見てたのに今はそんなことに楽しさを見いだせない。そんなつまらない大人になっていた。高校の参考書とか、少女漫画も机の上の棚に入ったまま。過去を、そして現在をありのまま照らした。
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