第3話真相
杏奈さんは実家暮らしで高校三年生だ。その事実をもう一度書き記しておく。
しかし、杏奈さんの収入なら確かに実家から出ることも可能だろうと考える人が多いと思う。
だが、実際は杏奈さんも駆け出しと言えば、まだ駆け出しなので一人暮らしはまだ分不相応だと考えたのだそうだ。
従って、俺は彼女と家の人とのほとぼりが冷めるまでウチにいても良いということにした。
さて、とは言っても憧れの人と少しの間といっても共に暮らすことになるのだ。
俺は少し、高揚感を抑えられないが、いけないいけない変なことはなしだ。
公園の夜空は星が煌めいてとても綺麗だ。
どうしても気になることがある。
「俺の家でいいんですか?女友達とか同業者の人とか...」
「えっとね。仕事のこともあるんだけど何かと頼れそうなのが君だったの。」
ううん?結局肝心な事は聞き出せないままだった。
そして、杏奈さんが俺の家に泊まるようになって3日経った頃。
俺の家に一人の人が訪れた。
「あのー。こちらに矢上杏奈が泊まってるということを耳にしまして。」
その人は杏奈さんの担当編集者だった。
杏奈が顔をちらつかせ、「田代さん!どうされたんですか?」
「矢上さん。やはりこちらにいらしてたんですね!」
「ええ、今はこちらでしばらく厄介になっています。」
俺はとりあえず田代さんを家に上げた。
「実は矢上さんと高野さんの今携わっている『俺の人生難易度高すぎない!?』のアニメ化が決まったんです!おめでとうございます!」
「ええ!?嘘!やったね!哲也君!」
「はい!俺、感動です!」
その日は祝杯を挙げるのだった。
次の日、俺は思い切って聞いてみることにした。
「杏奈さん。どうしてこんなタイトル何ですか。ストーリーの方は多少の困難はあってもタイトルとはかけ離れてます。」
「それはね、哲也君。私の人生に起因するんだよ。」
杏奈は両親の仲が悪く、とても居辛さを感じていた。
父は酒に入り浸り、母は知らぬ男と出かける日々。
杏奈は涙を流すことすらしなくなった。
そんなある日だった。
ライトノベルに出会ったのは。
小学5年生になる時、初めて手に取った作品が『私の弟がこんなにかっけーわけないじゃない』だった。
これを機に杏奈はラノベの自由と発想力に溢れる世界に誘われる。
しかし、ついに両親は離婚。
父方に引き取られたが、杏奈はめげない。
絶対にラノベ作家になるんだ!
それを心に誓い、奮い立たせた。
そして、杏奈の介抱の甲斐もあってか父はアルコールに節度を持つようになった。
やがて、時は経ち、杏奈は念願のラノベ作家になる。
「俺、知らなかったです。杏奈さんがそんなに苦労されてたなんて...」
「えへへ。私ラノベに出会ってなかったらどうなってたかわからないよ。このタイトルはね、私を奮い立たせるためのものでもあるんだ。そして、私と同じように苦しんでる人のことも奮い立たせられる。それが私の願い。」
哲也は杏奈のことを素敵だと出会った当初から思っていた。
だがこの時、哲也の気持ちは確信に変わったのである。
10年後。
「あなたー!健をあやしてあげてー。」
とある夫婦が幸せに暮らしている。
隣の家には売れっ子声優とその夫が住むという何とも贅沢な展開だ。
そして、本屋に立ち寄ると。
『俺の人生難易度高すぎない!?』が置かれている。
それはラノベ界の伝説ともいえる作品と化していた。
しかし、その本の作者の野心は止まることない。
私が変えるんだ。
私自身が革命の旗手となるんだ。
とある作品の言葉を引用する。
ねだるな。勝ち取れ。
とある女性ラノベ作家の座右の銘である。
俺の人生の難易度高すぎない!? kasim @lnd659
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