第2話杏奈の家

 俺は、早速約束の日になったので杏奈さんの家に向かっていた。


 っと、位置情報ではこの辺かなと見つけた。


 矢上家だ。


 では、インターホンを鳴らして。


 「はーい。」


 「あのー哲也ですー。」


 「哲也君だね。上がってー。」


 ガチャっと音がしてドアが開いた。そこにはカチューシャをした杏奈さんがいる。


 可愛い。


 俺は何て恵まれてるんだろう。


 そして、中に入ると綺麗なリビングを通り抜け、ダイニングでお茶を出してもらった。


 美味しい。


 何でこう人の家の麦茶はこうも美味いのか。


 わからない。だがそんなことは置いといて。


 そう仕事の話だ。


 無事に杏奈さんの新シリーズ。「あの角を曲がったら君に出会ってしまった件」のイラストを担当させてもらうことが決まったのだという。


 何でも杏奈さんの直談判によって筆の速い彼女の意見は難なく通ったそうだ。


 とりあえず一安心。


 俺もラノベのイラストを飾るとなったら箔がつく。嬉しいことこの上ない。


 そして、杏奈さんの新シリーズの構想を聞くこととなる。


 「今回のタイトルは主人公がヒロインに角を曲がった瞬間出会うベタなやつね。」


 「はい。」


 「でも、物語は斬新なものにしようと思ってるから安心して!」


 「で、キャラの構想なんだけど。」


 「主人公はイラストレーターということになってるの。」


 「そして、ヒロインはラノベ作家なのよ。」


 ん。どういうことだ?


 まるで今の俺と杏奈さんみたいだという台詞は敢えて言わなかった。


 「私は今ここに宣言するわ。このラノベで私は革命を起こすんだよ!」


 俺は少しだけ困惑していた。


 まるで現実とフィクションがごっちゃになってしまっている。

 

 そして、キャラデザの話に移る。


 だめだ。また夢幻の世界にいるような気分になってしまう。


 何とか気を取り戻し、杏奈さんの話に耳を傾ける。

 

 「主人公は茶髪で女たらしのイラストレーターね。そして、ヒロインは金髪帰国子女のラノベ作家。」


 良かった。今の俺たちとは正反対の印象のキャラだ。


 まずは表紙ね。...


 と、杏奈さんの構想はよく練られていて俺も問題なく最後まで注文を受け止められた。


 正直楽しみではある。杏奈さんと俺がタッグを組んでの小説。


 是非本屋で手に取りたい。


 こうして、俺のイラストレーターとしての業務が本格的に始まろうとしていた。






 次の日の放課後の昼下がり。


 今の季節は冬であり、家に植えてあるスノードロップという花に水をやる。


 そして、OUR SECOND STORYを聴きながら、注文を受けたイラストに取り掛かっていた。


 ピンポーン。


 誰だろうかと。インターホンに向かうと。杏奈さんだった。


 杏奈さんを部屋に上げるとちょうど世界の始まりの曲がかかっていた。


 「哲也君もセカハジ聴くの?」


 「はい。小学生の頃にブレイクしたじゃないですか?その時から好きなバンドです。」


 「いいねー。赤い太陽とか好きだなー。」


 「分かります!時々挟まれる英語の歌詞がカッコよくて!」


 と、音楽の話で盛り上がっていると、


 「いけない。本題に入らないと。」


 「そうでしたね。僕もつい盛り上がっちゃって。」









 仕事の話も終わり杏奈さんを暗くなった空の下送り届ける。


 「今日はありがとね。私ももっと頑張るよ!」


 「僕も負けませんよ。」


 俺は杏奈さんの拍子抜けの笑顔が移った。


 そして、帰り道のことだった。


 茜と星野が二人きりで歩いているのを見かける。


 雰囲気的に邪魔できないのでこそっと去ろうとすると、


 「あれっ?てっちゃんじゃない?」


 「ああ、確か隣のクラスの高野のことか?」


 「そうそう。あれ多分てっちゃんだよ。」


 俺は仕方なく二人の前に出て挨拶することにした。


 「茜...と星野君だよね?こんばんは。」


 「ああ。」星野の返事は星野らしいと言える。


 「あのね。私こちらの晴一君とお付き合いすることになったんだ!」


 「おお!めでたいな。二人がこれからも仲良く交際出来ることを祈ってるよ。」


 「ありがと!てっちゃん!」


 「ありがとな。俺も哲也って呼んでいいか?」

 

 「ああ、うん全然構わないよ。」


 「じゃあ俺のことはセイイチって呼んでくれ。」


 「わかったセイイチ!」


 こうして、俺は出来立てほやほやのカップルと邂逅していたのだった。


 リア充爆発しろ!





 そして、その夜俺は家でアニメを見ていた。


 すると、妹の花蓮がテレビのスイッチを変えやがった。


 「お兄ったらアニメばっか見てテレビ占拠して、たまにはドラマ見させてよ。」


 「ちぇっ。わかったよ。今日はもう好きにしていいから。」


 「やった。お兄わかってる〜!」


 こうして、俺は自室に戻る。


 そう。俺が家を飛び出し、イラストレーターとして生計を立てるようになったのは最近のことなのだ。


 そして、俺のアパートを発見した妹はこうしてたまに通っている。


 ちなみに妹は母方に引き取られているのだ。


 今日は妹が一台しかないテレビを独占となると。


 イラストを描くか、漫画でも読むか、どっちにしようかな。


 なんて思っていると、電話が鳴った。


 相手は杏奈さんだった。


 「あのね。哲也君。ちょっとしばらく泊めてもらうことってできないかな?」


 「なんですとー!!」と心の中で叫ぶ。


 女性と一つ屋根の下でしばらく過ごすことになるだって!?(妹除く)


 俺はテンパっていた。とても。


 いずれにせよ。事情を聞かないと。


 「今から四角公園で集合できる?」


 「分かりました。そこで事情を聞かせてもらいます。言いたくないことは言わなくていいので。」


 「大丈夫よ。じゃあまた後でね。」


 俺は急いで公園まで向かうことになった。


 そして、公園にたどり着くと。


 先に杏奈さんがベンチに座っていたのだった。


 



 

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