誰かの終わりは魔王の始まり

赤青黄

始まりで終わりで

 僕の人としての声が、君に届いたのかもしれない。それでも、君の優しさを受け止めるのは出来ない。どうして君は、僕にそんな優しさを与えるのか?どうして人としての温もりを向けてくれるのか?僕は化け物でいなければいけなのだ。

 人は醜い、明確な脅威が存在しなければ、この世界を汚してしまう。だからこそ、僕は化けゴミ箱として生きなければならないのだ。

 そんな言葉を口にしないでほしい。そんな優しい目を向けないでくれ。どうか、僕を化け物として扱ってくれ。人を好きになりたくない。どうか僕を魔王のままでいさせてくれ。


 昔々、「誰か」がこの世界に生を受けた。その「誰か」は、誕生の瞬間、冷酷な乳母によって地面に叩きつけられた。親はその子を化け物と呼び、周囲の人々は不吉な災いの前触れとして騒ぎ立てる。誰も、その子を人間として接してくれない。恐れの対象としてしか見られないのだ。

 青空が映る大広場で、「誰か」が絞首台に身を委ねていた。風は厳しく、その者を責め立て、群衆は化け物としての視線を向ける。親はようやく解放され、安堵の息をつき。兄や姉は無関心に髪をいじっていた。

 この瞬間、「誰か」は独りぼっちだった。


 もし、「誰か」の人生が物語のようであったなら、処刑の瞬間にヒーローが登場して手を差し伸べてくれることもあるだろう。しかし、それは決して起こり得ない。この物語は始まりではなく、終わりなのだ。「誰か」はヒロインでも、助けるべき弱者でもない。ただ、倒されるべき化け物であり、救われない存在なのだ。

 醜く蠢く人々は「誰か」に罵倒や石を投げる。 そして首をくくられる瞬間、「誰か」がポツリと言葉が漏れる。

 綺麗だ。

 「誰か」は穏やか気持ちだった。青空の優しさ、波の子守唄、そよ風の香り、太陽の温もり。これまでに感じたことのない感覚に、言い表せない感動を堪能していたのだ。

 そして思わずこぼれた言葉は宙にぶら下がる。化け物の死だのだ。しかし民衆は歓喜の声を上げなかった。

 この日、この国で新たな呪いが生まれた。ぽつりと漏れたその言葉は、恐怖を呼び覚まし、世界中に噂が広がった。やがて、噂は真実として捉えられるようになった。

 真実は言う、いつか魔王が復活し、世界を支配しに来ると。そのために、絶対的な力が必要とされる。

 人々は希望の為にあらゆるものを犠牲にする。大切な誰かを守るために知らない他人を脅かす。

 やがて「魔王」が眠りから目覚めたとき、世界は人々によって穢されていた。

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誰かの終わりは魔王の始まり 赤青黄 @kakikuke098

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