第四十二話/森の探索
村に戻り、討伐へ向かう支度を済ませる。
「…気をつけて行ってこいよ」
「なんスかその顔は、大丈夫っスよ。夕食には戻ってくるっスから!」
エイジは頷くも、いまいち表情が晴れない。
そんな顔のまま、シュテンを見上げる。
「頼んだぞ」
「あァ?…あァ」
「よし、じゃあ行くぞ」
アンナを皮切りに、メイも会釈をして歩き出す。
「エイジ殿、行って参りますね」
「美味しい夕食、期待してるっスよ!」
「ああ、任せとけ」
一行は村を出て、東の森へ向かった。
それから四時間、森の中を捜索するも巨大な魔物の手掛かりはひとつとして掴めなかった。
見つけたのは野営の跡ばかりで、小型の魔物すら出現しなかった。
「だーっ!少し休憩しようぜ」
アンナは野営に使われたであろう布切れが掛かった丸太に勢いよく腰掛ける。
メイとマンジュも焚き火の後を囲うように腰を下ろした。
「ふう、これだけ手応えがないと逆に疲れますね…」
「やっぱり魔物の話はデマなんじゃないっスか?あのギルマスにしてやられたんスよアタシらは」
シュテンも適当な場所に座る。
「しかしスライム一匹出る気配もないな。どんだけ安全なんだよこの森は」
アンナがハンカチで顔を拭いながら零す。
「昔から何故か寄り付かないんスよねこの辺は。理由は分からないっスけど」
マンジュが返す中、メイは上を見上げる。
「…だいぶ来たようですね」
メイの視線の先には、森の木々の間から反り立つ崖が見えていた。
「確かに、森に入る前には遠くに見えるだけだったのに、結構デカい山だな」
「この岩山、この辺では目印代わりに使われてるっスから」
「じゃああの山の麓まで行って引き返すか」
「そうですね、あまり暗くなるといけませんし」
「…………」
十五分ほどの休憩の後、山の方へ出発する。
途中で遭遇した兎に驚きつつ、それから三十分足らずで麓、というより崖下に到着する。
「うわぁ、高いですね」
メイが上の方へ目を凝らす。
「さて、魔物の気配もないし、引き返すか」
「…………」
アンナが踵を返す中、シュテンは崖を凝視し続けていた。
「シュテン殿、何か気になられますか?」
「あァー……………」
生返事のように返し、シュテンが何か言おうとしたその時だ。
爆音と衝撃波が一行を包み、メイが見上げると真上の崖が爆発を起こして崩れ始めた。
「!?――――シュテン殿!………っ!」
オニ党の四人に、大小様々な落石の雨が降り注ぐ。
やがて砂煙が落ち着く頃には、辺りは瓦礫に覆われ、森は再び静寂に包まれた。
一瞬、何者かが森を去った足音を除いて。
「…遅せぇな」
夕焼けもそろそろ終わる頃、マンジュの家の前で、エイジは一人佇んでいた。
「何も無ければいいが…」
胸騒ぎを抑えるように雲を眺めていると、足音が聞こえて視線を落とす。
「マン…」
「よおクソガキ」
「お前ら…っ!」
エイジは立ち上がる。
現れたのは、昨日の冒険者一行だった。
そのリーダー格の男が周りを見回す。
「あのパーティは居ねえみたいだな」
取り巻きの一人が笑う。
「上手くいったようだなぁ!」
「…なに?」
エイジの鼓動が早くなる。
「てめぇら…マンジュ達に何をした!」
リーダー格の男は更に笑う。
「お友達は今頃森の中で冷たくなってるぜ」
エイジは無意識に呼吸が荒くなる。
手先が痺れ小刻みに震え出す。
「な、んだと…?」
道端の小石が次々と浮遊し出す。
「き…貴様ァー!」
「芸がないな」
射出した小石は取り巻き達が剣や盾で次々と弾いていく。
「クソっ!」
魔法で太刀打ち出来ないと悟ったエイジは拳で対抗しようと詰める。
「よっと」
「ぐっ…」
しかし、冒険者には適わず軽く受け止められてしまう。
「なあお前…後ろの家になんか隠してんな?」
「なに…?」
「大事そうに守ってやがるもんなぁ、この村だと珍しく小綺麗だしよ」
「な、何もねえよ!」
エイジは咄嗟に否定するも、逆効果だ。
「ふぅん、見てみようぜ」
「やめろ!」
「うるせえよ」
「っ!?ぐあっ」
エイジの手は軽く捻られ、横へ突き飛ばされる。
「ぐ…やめろぉ!」
ありったけの魔力で小石を飛ばすも一つも当たらず、取り巻きの一人が倒れたままのエイジの顎を蹴る。
「鬱陶しいぞ」
「が…っ!」
「ん…なんだこれ鍵掛かってんのか」
「そんなん壊しちゃいましょうよ」
「そうだな…よっ、ん、硬いな」
エイジは這いつくばったまま、拳に力が入る。
「ぐ……」
このままマンジュの家が荒らされるのを見とくしか出来ないのか。
大切な人ひとりどころか、その大切な物も守れない、そんな自分が恨めしい。
「じゃあ、強くなっちゃう?」
「っ!?」
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