第二十話/早朝軍議

「今夜、ですか…」

翌朝、軍議室へ招集されたシュテン達オニ党は、あまりに緊迫した空気に固唾を飲んでいた。

「だが幸いにも内訳は人間100%、魔物はいない。数こそ2000を超えると言うが、対処出来ない数字じゃない。だろテンショウ?」

ゲンキの問いにテンショウは頷く。

「人間相手ならば、我ら兵団は遅れを取りませぬ」

「いや、待て」

アンナが口を挟む。

「クーデターだぞ?相手は念入りに計画しているはずだ、コイツらは先遣隊だと考えるべきだ」

ゲンキは「ふむ」と少し考え込むと、不意に上を向いた。

「おい、タイジ居るか」

「居る」

上から男が降ってきた。

驚いたメイが刀に手を掛けるが、アンナが制する。

「あれはウチの諜報員だ、安心しろ」

「し、失礼…」

「してタイジ、他に敵方の動きはあるか?」

「無い、全方位確認した。片道3日圏内に敵影見えない。伏兵、不可能」

「との事だアンナ。今回が先遣隊だとしても、少なくとも3日以内に本隊が来ることは無い。我々はその時間に準備をすればいいのだ」

アンナは少しバツが悪そうにため息を吐いた。

「では配置だが、兵団をメインに展開する。アンナは城内にて討ち零しの処理、オニ党諸君は遊撃に回ってくれ」

「兵団での本対応、でありますか」

テンショウが眉間に皺を寄せる。

「心配するな、夕方にはショージが帰ってくる」

「な、ショージ兄が!?」

アンナが思わず立ち上がる。

「おお、兵士としても軍師としても優秀な坊が団に居れば百人力ですな!」

「なんなら、敵、来る前に、終わる」

テンショウとタイジも盛り上がる。

どうやらアンナの兄は相当な手練らしい。

「よし、異存はないようだな、では各自準備!」


「アニキ、姐さん」

軍議室から出たシュテン達を、マンジュが呼び止める。

「これを渡しておくっス」

マンジュの手の中には小さな魔道具が二つ乗せられていた。

「これは?」

「魔導無線『イアモニ』っス。これを付ければ念話通信が出来るっスよ。遊撃隊は情報交換が命っスから」

「なるほど、ありがとうございます」

メイが受け取り耳に付ける。

「ほら、アニキも」

「あァ」

シュテンは恐る恐るつまみ上げると、耳の穴に捩じ込んだ。

「わっ、違うっスよ!?耳怪我しちゃうっス」

「あーほらシュテン殿屈んでください」

メイがシュテンのイアモニを付けると、「では」と一呼吸。

『聞こえますか?』

シュテンは不思議そうに辺りを見渡す。

『バッチリっス!』

今度はマンジュの声が頭に直接響く。

「シュテン殿、こういう物です」

「アニキも何か伝えようと念じてみるっスよ」

「…こうか?」

『握り飯』

「ぷはっ」

メイが吹き出す。

「何で握り飯なんですか、あはは」

『アニキは腹ペコさんっスねぇ』

「…こりゃァ、慣れるのに時間がかかりそうだァ」

「じゃあ、地形の把握がてら練習しますか」

「いいっスね、行きましょうっス!」

「ところでマンジュ殿、イアモニをアンナ殿達にも渡しておいた方が良いのでは?」

「そうしたいのは山々なんスけど、三人分しかストックがないんスよ」

「なるほど…」

「それならお前らが優先だな」

聞いていたのか、後ろからアンナが声を掛けてきた。

「私のことは気にするな、どうせ城内に籠ってるだけだ」

「面目ねぇっス」

「あ、アンナ殿、よければ訓練に付き合って頂けませんか?」

「ああ、なんならこっちから声を掛けようと思ってた所だ」

「じゃあまずは地形の把握、行くっスよ!」

女子三人がワイワイと歩き始める中、イアモニの感覚と戦いながらシュテンもゆっくり立ち上がった。

『アニキ、ほら早くっス』

『…あー』






その頃、森の中。

蹄鉄が地面を蹴る音が颯爽と通り過ぎる。

「急げ、急がなきゃ…」

馬の上で呼吸を浅くしながらも、全速力を出し続ける影がひとつ、ヴェイングロリアス領方向へ走っていた。

その腹に黒い染みを抱えて。

「メイさん達が…危ない…ッ!」

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