第十四話/ドカンと一発
真正面、飛び出してきたゴブリンを、メイは抜き付けに両断する。
「戦える…戦えます!」
その勢いのまま八相に構え森の中へ飛び込んでしまう。
「あっ、姐さん!…アニキ!」
「あァ」
シュテンが後を追って飛び込む。
「…じゃあアタシはこっちから行くっス!」
マンジュは魔導鞄からいくつかのアイテムを取り出す。
「イダテンソックス、頼むっスよ」
装着した靴はイダテンソックス、これにより身軽に動く事が可能になる。
「そして今日の得物は…ゴブリンアーチャーっス!」
ゴブリンアーチャー。クロスボウの形をした魔導具で、魔力を矢の形にして連続射出でき、ゴブリンの魔力を察知して自動追尾する。
マンジュは森の中を縦横無尽に駆け、置き土産にゴブリンアーチャーを放っていく。
「アニキ達に遅れは取らないっスよー!」
一方のメイは、初めての討伐戦による興奮に任せて剣を振るっていた。
今までは甲冑の重みで満足に立ち回ることが出来ず、そのせいでテンニンが討伐クエストを受理してくれなかった。
それが今初めて冒険者らしく振る舞えている。興奮するなという方が無理な話だ。
実際にメイは四方から襲い来るゴブリンを的確に処理出来ていた。
「……」
それを後方で見ながら、シュテンは拳を振りかぶる。
「はあっ…はあっ…あっ!」
メイの姿勢が崩れた。
いくら身軽になったとはいえ急な運動に身体が追いつかなかったのだ。
回る視界の中、前方にゴブリン。
足は縺れて、腕の動きは鈍っている。
回避は不可能。
目と共に歯を食いしばったその時、破裂音が聞こえ目を開けると、塵と化すゴブリンと、横から伸びた拳が映った。
倒れるはずだった身体は支えられていた。
「し…シュテン殿」
先程の無謀な立ち回りを自覚し、一気に顔が熱くなる。思わず俯いてしまう。
「申し訳ありません…」
「メイ」
顔を上げると、シュテンと目が合う。
「好きにやれェ、後ろにァ俺が居る」
「シュテン殿…はい!」
シュテンは支えていたメイの肩を押す。
「不肖メイ、推して参ります!」
メイが飛び出して行くのを、シュテンは腕を組んで見る。
その間にもシュテン目掛けて飛び込んでくるゴブリンがいたが、シュテンはメイの方を向いたまま、まるで蝿を払うかのように処理していった。
「うおおおお!」
その流れで横から飛び出してきた何かを叩くとパキンと違う音が鳴る。
「んァ?」
「えっ?」
よく見ると人間がシュテンに斬り掛かろうとしていたようだった。
平手で折られた剣を見て真っ青になっている。
「あ、間違え…え、でも折れ、俺、オレェア」
そのままへにゃりと倒れ込んで気絶してしまった。
「…あー」
厄介だがこのまま置いていくわけにはいかなそうだ。
シュテンはその冒険者を担いでからメイを追いかけた。
「アニキー!姐さーん!」
「あ、マンジュ殿」
しばらくするとマンジュが合流してきた。
「姐さん調子は…お疲れっスね」
「え、ええ…まあ」
時間の経過とともにメイの動きは粗さが増え、既に10回はシュテンに支えられていた。
「あれ、アニキその方は?」
「目の前でぶっ倒れたァ」
「ふむ…」
マンジュは少し考えると「よし」と手を鳴らす。
「そろそろ方針を転換するっスよ」
「方針?」
「はいっス。姐さんは森の入口に戻って撃ち漏らしの処理をして欲しいっス。アニキの担いでるその方含め、他に森の中に人の気配も無いっスから、アタシとアニキでどかーんとやっちゃいましょう!」
「どかーんと…かァ」
「はいっス!」
メイは考える。確かに、自分がフラフラで戦い続けるよりも遥かに効率的かもしれない。
「わかりました。ではシュテン殿、その方を預かります」
「あァ」
「ではご武運を!」
メイは冒険者を引き摺るようにしながらも森の入口まで走って行った。
マンジュは魔導具の魔力レーダーを使い、メイが森から出たのを確認する。
「姐さんは森から出たっスね、アニキ!思う存分暴れましょう!」
効率的な方針でメイを森の外に出したマンジュだが、その実はシュテンの本気の戦闘を間近で見たいというものだった。
メイを守りながらの戦いではシュテンの実力を観察することが出来ない。ただただマンジュは強者の振る舞いを近くで感じたかったのだ。
「アニキ!」
「あァ、どかーん、だなァ?」
「はいっス!…え?」
ぞわっ、とマンジュの背筋を嫌な物が走る。
この時シュテンは妖気を森全体へ敷き詰めていた。
マンジュはそれには気づけなかった。だが本能的に、シュテンが何かとんでもない事をしようとしているのだと察した。
察して後悔した。自分が「どかーん」なんて曖昧な言葉を使った事を。
「あ、アニキ…!待っ」
「鬼道・爆技『鬼炎万丈』」
瞬間、森の地面は一斉に閃き、直後に大爆発が起こる。
「わあっ!?…えっ!?」
森の前で剣を構えていたメイは突然の爆音と衝撃に尻餅をついて呆然とする。
ハッとしたのは、爆発から先日感じたものと同じシュテンの魔力を感じたからだ。
「シュテン殿お!何をやってるんですかあぁ!」
一方の森内部、もはや内部とも言えない様相のその場所に、スッキリした顔のシュテンと腰が抜けて動けなくなったマンジュが夕空を見上げていた。
「し、死んだと思ったっス…」
周りの状況を見るに、マンジュが居た所だけ爆発が起きていないようだった。
器用にも、シュテンがそう操作したのだろう。
何食わぬ顔で立つシュテンを見遣る。
この方は、マンジュなんかが測っていい存在では無かった。
想定を超えるとてつもない力を持っているのだ。
マンジュはそれを震える体を持って実感したのであった。
「…あ、ちょっとちびった」
しばらくして、爆発音を聞いたギルド職員が駆けつけてくる。
中にはゲンオーもおり、森の1/3が消滅した現状に開いた口が塞がらないと言った感じだ。
「シュテン…もう少し常識ってやつをだなぁ」
「?」
ゲンオーの小言も、シュテンにはまだ難しいようだ。
じきにゲンオーもため息を吐いて諦めた。
「…もういい、明日は早い。お前達三人もう帰って寝なさい」
ただしこの件は後で覚えとけよ、と不穏な台詞を付け加えるゲンオーに対し、メイがそそくさとお辞儀をして踵を返す。
なお腰が抜けて歩けないマンジュはシュテンの背中だ。
「全く!もう!めちゃくちゃびっくりしたんですからね!」
宿にたどり着くまでしばし、今度はメイの小言を聞くことになったのは言うまでもない事である。
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