第十三話/郎党

「ところで、アニキ達はパーティ名は持ってないンスか?」

試し斬りを終え街まで戻る道中、マンジュがふと尋ねた。

「今のところは特にありませんね、私達も組んだばかりですし…」

「それなら今考えましょうっス!」

「確かに、この先パーティ名は必要ですね…シュテン殿、どう思われます?」

「いィんじゃねェかァ?」

何となくではあるが、パーティという物がいわゆる郎党を指す物であるのはシュテンにも理解出来た。

種で纏まっていた大江山の鬼たちとは違い、人間同士で郎党を組むには相応しい名前が必要なのだろう。

そういうのは実に人間らしい。

「しかしいざ名前をと言われると、中々出てきませんね」

腕を組んで頭を抱えるメイの横で、マンジュが何かを閃く。

「そういえば、アニキは異人なんスよね?」

「あ?あァそうだ」

「アニキはなんて言う種族なんスか?」

「ん…」

大江山の鬼の棟梁であったシュテンだが、自分たちで種族を名乗った事はない。

故に、返答はこうなる。

「周りからは、鬼と呼ばれていたなァ」

「オニ…族っスか?初めて聞いたっスね」

「私もです。シュテン殿は本当に遠くからいらしたようですね」

「でもオニ族っスか…ふむふむ」

「マンジュ殿、多分私達同じ事を考えているのではないですか?」

「そうかもっスね…ふふふ」

正直、鬼という言葉を使うのには抵抗があった。

自分を鬼であると自称する事で、人間への道が更に長く感じるからだ。

それに、魔剣の件もある。

二人の反応を見るに、この世界には鬼という概念は無いようだが、やはりその言葉は使わないに越したことはない。

これからは、意識して使わないようにしよう。

「アニキ!」

「シュテン殿!」

そんな事をボーッと考えていると、二人から呼ばれて現実に引き戻される。

「我々のパーティ名、これに決めちゃっても宜しいですか?」

「ん?あァ」

考え事をして聞いていなかったが、まあ二人が納得したのならそれていいだろう。

「では!我々は今日この時より『オニ党』を名乗るっス!」

「あァあ?」

思わず変な声が漏れた。

「リーダーであるシュテン殿を象徴するために種族名を取り入れたパーティ名、名声を以て全国に轟かせましょう!」

「オーっ!」

シュテンは顔が引き攣るが、すぐに溜息にして気分を吹き飛ばす。

もうなるようなれ、と。

「おーい!」

後ろからの声に一行は振り返ると、数人の冒険者パーティが走ってきていた。

「どうされたんですか?そんなに急いで」

「ご…ゴブリンの群れが!急に森の奥から押し寄せて来たんだ!」

「えっ」

「あっ」

冒険者たちの叫びとは裏腹に、メイとアンジュは固まる。

「早く引き揚げて門を閉めないと!」

「…他に森の中に人は?」

「数組の冒険者が居たが、今出てこないって事はそういう事だろ!?君達も早く門の中へ!」

マンジュは頭をポリポリと掻く。

「あー…皆さんは先に戻って門を閉めるっス。アタシはゴブリンを食い止めとくっスよ」

「え、私も行きますよ!?まだ人も残っているんですし!」

なんだか分からないが、メイとマンジュは残る気らしい。

ならばシュテンにも逃げる理由はない。

「…さっさと行けェ」

「し、知らないからな!」

冒険者たちは門を潜るとすぐに閉まる音が聞こえた。

「…マンジュ殿、そういう事ですよね?」

「そうっス、そういう事っス」

「…どういう事だァ」

堪らずシュテンが突っ込む。

「さっき召喚球でゴブリンを呼び出したっスよね、あの時普通に倒したなら問題はなかったんスけど、真上で斬ったせいで、ゴブリンの魔力残滓を姐さんが浴びちゃったんスよ」

「すぐに祓えば良かったんですが、忘れていました…ゴブリンは同族の魔力残滓と人間の匂いの混ざりを嗅ぎつけて襲ってくる習性があるんです」

説明を聞きながら、森の方へと走る。

「要するに、アタシらのミスで森中のゴブリンが集まってて、被害が出てるかもしれないんスよ」

「良くあることではあるので、我々が罪に問われたりは無いですが、黙って見過ごす訳にも行きませんよね」

次第に地響きのような足音が迫ってくる。

「すみません、ゴブリン退治なんて今まで縁がなかったのですっかり忘れていました」

「アタシもうっかりしてたっス。まさかこんなケアレスミスをするなんて」

森の入口、視界がある場所で歩を止める。

「なんにせよ、『オニ党』の初仕事っス!」

「はい!素早くゴブリンを片付けて、冒険者の方たちをお助けしましょう!」

ガサリと低木が揺れる音と共に、森の中からゴブリンが一斉に飛び出して来た。

「おー…ゥ」

その中シュテンは、パーティ名の響きに慣れるのには時間が掛かりそうだと考えるのであった。

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