第十二話/メイの装備

「私は宿に戻る。明日は早馬でも半日の距離を移動するんだ、お前達もしっかり休んでおけよ」

ギルドの前まで出ると、アンナはそれだけ言って踵を返す。

「アンナ殿!…あまり気負いすぎてはいけませんよ」

「…ああ、分かった」

メイの声に振り返ることなく応え、そのまま去っていった。

「…さて、我々も帰りましょうか」

「あァ」

「ちょっと待つっスよ!」

アンナを見送り歩き出そうとしたのをマンジュが遮る。

「アタシらは一度装備を整えに街に出るっスよ!特に姐さん!」

ビシッと指をさされ、メイは思わず鎧をガシャリと鳴らす。

「え、私ですか!?」

「そうっスよ、なんスかそのタンク装備。アタシより身体が小さい上に得物はそのリトルダガーっスよね!?めちゃくちゃアンバランスっスけど、マトモに魔物討伐出来るんスか?」

「うぐっ」

痛いところを突かれたメイの表情が引き攣る。

「もっと軽装にして、武器も選び直した方がいいっスよ!」

「し、しかし私は訳あってあまり顔を出すのは…」

「任せるっス!アタシがトータルコーディネートしてあげるっスよー!」

「え?わ、あ、ちょ、引っ張らないでくださいー!」

マンジュはメイの手を掴むと有無を言わさず走り出した。

「アニキ!行くっスよ!」

「おォ」

「ひーん!」

それから約3時間後、店の前で待つよう言われたシュテンの前に二人が出てくる。

「アニキー!お待たせしたっス」

「うぅ…心許ないです」

現れたメイはそれまでの全身フルメイルで顔面しか見えなかった姿からは程遠く、布製のシャツに丈の短いスカートを履き、顔を隠すフードを被ったどこにでも居そうな華奢な少女の風貌になっていた。

「心許なくないっスよ、魔物由来の素材で耐久と防御性能は今までの甲冑と遜色無いんスからね」

「しかしこんな軽装…」

「軽装じゃなきゃ折角の可動性を生かせないじゃないっスか」

「ですが…」

「…ん?」

メイはモジモジと動きながらたまにシュテンの方をチラチラと見ていた。なんだろう。

「…アニキ、アニキ」

マンジュが耳打ちする。

「んァ?」

「こういう時は似合ってる、とか言うべきっスよ」

「…あァ?」

なんだそれは。

意味は分からないが、それが人間らしい対応ならシュテンに拒む意味は無い。

「…似合ってるぞォ」

「そ、そうですか?…ありがとうございます」

メイは語尾になるほど声が消えていき、同時にフードの被りを深くしていった。

シュテンには全く理解出来ないが、マンジュは満足そうな顔をしていた。

「さて!次は武器っス!」

「あっあのマンジュ殿?」

メイは、武器屋へ向かおうとするマンジュを慌てて引き留める。

「なんスか、ここまで来て武器を買わない手は無いっスよ!」

「いや、服を買った分でもう手持ちが…」

「マジっスか」

マンジュは腕を組んで考える。

「そうだ。アタシのコレクションを使えばいいんスよ!」

「えっ?」

メイは魔導鞄の口を開け中を探る。

「うーん、どれがいいっスかねえ…一回街の外で色々試すっスか?」

「そ、そこまでしなくてもダガーが…」

「その武器、姐さんには正直マッチしてないっスよ」

「えっ」

「さて、行きましょう!ね、アニキ!」

「あ?あァ…」

完全にマンジュのペースで、街の外へ行く。

街を出たすぐにある草原で、マンジュは魔導鞄からいくつかの武器を取りだした。

「レイピア、グラディウス、ハンマー、ハリセン、モーニングスター…どれもピンと来ないっスねえ」

「後半のは武器なんですか…?」

しばらくマンジュはぶつぶつ言いながら魔導鞄を掻き回していたが、ピタと手が止まった。

「…姐さん、ちょっとこれ使ってみて欲しいっス」

マンジュが取り出した「それ」を認識した途端、シュテンがピクりと反応した。

「刀、ですか?」

「はいっス、これは魔剣ドウジギリというっス!」

「魔剣!?」

シュテンの目から見ても明らかに異様な気を放つその刀はどう見ても、大江山で敵の大将、源頼光が持っていたそれであった。

「ドウジギリは対魔物に特化した武器っス。重さも大きさも姐さんには丁度いいかと思うっス」

そういうとまた魔導鞄から何かを取り出す。

「じゃあ召喚球でそこにゴブリンを召喚するんで、試し斬りしてみてくださいっス!」

「は、はい!」

メイはマンジュが指さした方向を向き刀を構える。

マンジュは魔導鞄から取り出したボールのようなものを振りかぶる。

「行くっスよー…それっ、わぁっ!?」

タイミングよく吹いた風の影響か、マンジュの手からボールがすっぽ抜け、メイの頭上を後ろから目掛けて弧を描く。

ポンと音がして中からゴブリンが飛び出すと、メイの真上へ自然落下する。

「姐さん危ない!」

「えっわっ!」

マンジュは対応出来る位置におらず声をかけることしか出来ない。

シュテンも反応が遅れ動くことすらままならない。

メイが気づいた頃にはゴブリンは間合いの中。

ダメージ不可避の状況であったが、次に聞こえてきたのはゴブリンの悲鳴だった。

メイは咄嗟の動きでドウジギリを振り、ゴブリンを着地させることなく両断したのだ。

「わっ!」

無理な姿勢で刀を振るったせいか、メイはそのまま尻もちを着く。

ゴブリンは空中で塵となっていた。

「はっ…はっ…びっくりした…」

「姐さあん!」

「うわっ!」

マンジュがメイに飛び付く。

「すみませんっス!ビックリしたっスよね!?でも凄かったっス〜!!」

「ちょ、分かりましたから!苦しいですよお!」

「これで決まりですね!姐さんのメインウェポンはこの剣にするっスよ!」

「こんな凄い刀を、本当に良いのですか?」

「勿論っス!ね、アニキもいいっスよね!?」

二人はシュテンの方を向くが、シュテンからは応答が無かった。

「…シュテン殿?」

「ん、あァ?」

「どうかされました?」

「…いや、なんでもねェ」

そう、異界の地での思わぬ再会に驚いただけだ。

シュテンは自分にそう言い聞かせ、目の前の刀について考えるのを止めた。

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