第十一話/ギルドマスター指令
一度控え室へ戻っていた一行の元に、拘束を解かれたマンジュを連れたゲンオーが現れた。
回復師によってケンムの完治が確認され、マンジュは晴れて自由の身となったのだ。
「とはいえシュテン、お前達のパーティに入ることが条件だ。お前達二人がしっかり見張っとくんだぞ」
「はいよォ」
シュテンの返事に不安そうな顔になるゲンオーだったが、息をひとつ吐くと顔を引き締める。
「未だケンムの意識は戻らないが、マンジュ君が任務を受けてここに来たという事実がある以上、ヴェイングロリアス領が危険に晒されている可能性が高い。ギルドは既に使いを送ったが…アンナ嬢、君はどうする」
後ろで静かに腕を組んでいたアンナは、そのまま答える。
「…すぐにでも帰るさ」
それを聞いたゲンオーは「分かった」と前置くと、懐から書状を取り出した。
「ではギルドマスターからの指令をお前達へ伝える」
「なっ」
「えっ!?ギルマス指令ですか!?」
アンナとメイが分かりやすく狼狽える。
ゲンオーは構わず読み上げる。
「シュテンら三人のパーティは、これよりアンナ=ヴェイングロリアスとの臨時合同パーティを結成し、ヴェイングロリアス領の治安維持を達成せよ」
「お、おいギルマス!私はそんなの頼んでねーぞ!」
アンナは胸ぐらでも掴みかねない勢いで踏みよる。
対するゲンオーは表情を崩すことなく返す。
「アンナ嬢、相手は黒龍を召喚できるケンムや、私に気付かれずに暗殺未遂を実行できるような優秀な斥候であるマンジュ君を使い走りにするような連中だ。故郷の事を思うなら、その黒龍を倒したシュテンやメイ嬢、それに多少相手が分かるマンジュ君を連れていかない手は無い」
「で、ですがそんな大役…ましてはギルマス指令なんて駆け出しの我々にはっ!」
メイが口をパクパクさせながら訴える。
「メイ嬢、シュテン。お前ら、まだクエスト完了してなかったよな」
「へ?」
斜め上の質問を返されメイは固まる。
「た、確かにケンム殿との合同クエストの完了手続きはまだでしたが…」
「じゃあこれはそのクエストの続きだ。これが終わらなきゃ、壊した壁は弁償してもらう事になるな」
「そんな無茶苦茶なぁ!…シュテン殿ぉ」
助けを求めるような顔でシュテンを見上げる。
シュテンは考えた。
こういう時、どう振る舞うのが人間らしいのか。
だが分からなかったので、聞くことにした。
「おい、俺ァどうすればいい」
真っ直ぐ前を向いてその場の人間達に問いかける。
すると何故かゲンオーが微笑んだ。
「さすがアニキっスよ!」
「あァ?」
マンジュは誇らしげな顔をしている。
なんだ、どうしたんだ。
「シュテン、いいんだな?」
アンナは真剣な顔でこちらを見てくる。
いいんだなとは何がだろうか。
「シュテン殿…分かりました、シュテン殿がその気なら、不肖メイ尽力致します!」
メイもみるみるうちに背筋が伸びていく。
何が起きているのかさっぱり分からない。
「よし、じゃあ明朝出発にする。各自準備を整えておけ」
ゲンオーがそう締めて解散となった。
何が何だかさっぱり分からないが、何やらどこかへ向かうらしい。
「…やっぱ人間ってよく分からねェ」
「シュテン殿ぉ、何してるんですか?早く行きましょう!」
「…おー」
何だか分からないが、これが人間だと言うのなら甘んじて受け入れようと思う、シュテンなのであった。
「…あ、そういやァこれ返すわ」
懐から取り出したそれをマンジュへ見せる。
「なんスか…うをっ!テンタクルスコップ」
「ひいっ!」
マンジュだけでなくメイまでもが一歩引く。
「え…アニキ、それどこに持ってたんスか?」
「あァ?普通に鷲掴みにしてたぞ」
「えぇ…普通は目隠しの布袋に入れて持ち歩くモンっスよそれ。鷲掴みになんかしたら手貫かれるっスからね?」
「そうなのか?…確かに手の中でモゾモゾはしたが、突かれるような素振りはなかったぞォ」
「触手すら手中に収めてしまうとは…流石アニキっスね!」
「い、いいから早くそれを仕舞って下さーい!!」
ギルド内にメイの悲痛な声が木霊したのであった。
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