第2話 みかんに溺れる夜

それから幾日か過ぎ、二人は再び出会うことになった。場所は彼女たちだけが知る静かな夜の海辺。潮の香りが漂う中、二人はみかんを持ち寄り、砂浜に座り込んだ。夜風が少し冷たく、彼女たちの肩を寄せ合わせていく。


「夜の海でみかんを食べるなんて、思いつかなかった。」


彼女の言葉に、隣の女性は小さく笑ってうなずく。


「あなたと一緒だから、きっと特別なんだと思う。」


そう言いながら、彼女はそっとみかんの皮をむき始めた。皮を剥くたびに、みかんの香りがさらに強くなり、まるで周囲の空気が甘酸っぱく染まっていくかのようだった。


彼女が果実を一房ちぎり、隣の女性にそっと差し出す。相手はその指先に目を留め、やがて口元に運んで口に含んだ。みかんの果汁が唇からこぼれ、その光景が一瞬の静寂を包み込む。


「甘くて…少し酸っぱい。」


彼女の声は低く、官能的だった。その声に誘われるように、彼女もまたみかんを一房口に含むと、果汁が口いっぱいに広がり、みかんの酸味と甘みがまるで彼女の心に染み込むようだった。


その後、二人は交互にみかんを食べさせ合い、口元に残る果汁を拭うことさえ忘れるように、無言のままみかんに夢中になった。指先が触れ合うたびに、言葉では表せない親密さが、二人の間に漂っていく。


やがて、二人の間に残されたみかんはあと少しだけになった。その瞬間、彼女はふと手を伸ばし、みかんの一房を相手の唇にそっと押し当てる。そして、彼女はそのままみかんに口を寄せ、互いの唇がみかんの果肉越しに触れ合った。


甘くて、切ないような一瞬。みかんの果汁が二人の唇の間を流れ、二人はその一瞬の中で、自分たちがみかんという果実を超えて結ばれていることを感じた。みかんが二人の距離を縮め、彼女たちを未知の深い情感の世界へと導いているのだった。


夜風が二人の間を通り抜けるころ、彼女たちはお互いを見つめ合い、無言のまま微笑みを交わした。みかんの香りと夜の静けさに包まれて、二人はもう誰にも邪魔されない二人だけの時間に浸っていた。

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