みかんに狂う美女たち

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 みかんとの出会い

夕暮れ時、薄橙色に染まった街角の青空市。秋の終わりに実るみかんが、山積みにされていた。彼女は無意識にその甘酸っぱい香りに引き寄せられ、つややかな果実にそっと手を伸ばした。


隣には、もう一人の女性がいた。艶やかな黒髪を背に流し、柔らかい微笑みを浮かべている彼女もまた、みかんを一つ手に取っていた。ふと目が合い、無言のまま微笑み合う二人。まるでみかんが二人を繋ぐためにそこに存在しているかのようだった。


「みかん、好きなんですか?」


声をかけたのは彼女の方だった。相手の女性は少し驚いた様子だったが、すぐに小さくうなずく。


「ええ、みかんの香りが好きで…なんだか落ち着くんです。」


二人は自然と歩き出し、街外れの小さなカフェにたどり着いた。店内は静かで、二人だけの空間のように感じられた。窓際の席に座り、注文したのは、偶然にもみかん風味の紅茶だった。お互いにクスッと笑い合う。


紅茶を一口飲むと、みかんの香りが鼻腔をくすぐり、さらに二人の距離が近づいた気がした。


「不思議ですよね、こんなにみかんに惹かれるなんて。」


「本当に。みかんの香りって、心を落ち着かせるけれど、どこか心をざわつかせるような気もして…」


二人は言葉を交わしながら、みかんという小さな果実に導かれて、少しずつ互いのことを語り始めた。みかんの皮をむくように、少しずつ、心の奥深くに秘めた思いを打ち明けるかのように。


気がつけば、外はすっかり夜の帳が下りていた。それでも、二人はまるでそこに時が止まったかのように感じていた。お互いにとって、この出会いがこれまでにない特別なものであることを感じ取っていた。


そして、そっとテーブルの上に置かれたみかんを二人で手に取った時、その果肉が二人をもっと深い世界へと誘う予感が漂っていた——。

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