第40話 山中での出会い

「よく生きていたな。ワシはここのファームの代表、高沢と言う者だ。こっちのが息子の誠一。隣の女性が部下の南田だ」


「初めまして高沢さん。田中ヒロシです。誠一さんと南田さんも迎え入れて下さって、ありがとうございます」


「榮倉レイカです!ヒロシの恋人です!皆さん迎え入れてくださり、本当にありがとうございます!」


(照れる事を平気で言うなぁ…)


「田中さんに榮倉さんね!野菜スープでも飲んで、先ずは落ち着いてね」


「ありがとうございます。頂きます」


「榮倉さん、貴女が持っているのは武器か?」


「あ、はい。私とヒロシ君は施設育ちで、後に国防軍の基地で特殊訓練を受けていました。そしたら、よく分からない物に襲われて2人で日本を放浪していました」


(何てアドリブが効く娘なんだろう!皆んな信じた顔をしてるし…)


「そうか…じゃあ2人はあの怪しげな宗教団体と繋がりは無いんだな?」


「ボサツの事ですね?名前だけは知っていますが、世間には疎い生活をしていたものですから…」


「あんな怪しい団体に付いて行かなくて正解よ!あ…社長、ごめんなさい」


「構わんよ南田。実はワシの娘と孫が町に住んでいて、ボサツの信者では無かったが甘い言葉に乗って施設に行ったようでな…」


「そうでしたか…その、何と言えば…」


「……ハハハ!少し面倒臭くなったな。田中君、必要以上に正体を偽らなくていいぞ。ワシはボサツの影響力が拡がる前まで国防軍に所属していてな、2人が只者じゃ無い事は一目で分かった!榮倉さんはワシが気付いているのを知ってて、あんな事を話したのだろ?」


「うん。3人共、歩き方や所作が素人じゃ無いなぁって思っていたよ」


「親父、こっちもバレていたみたいだな」


「どうされますか高沢少将?」


(ええ!?何これ?気付いてないの俺だけなの!?)


「今から腹を割って話すだけだ。ワシは別にレジスタンスを気取る訳じゃ無いが、娘と孫がこの県の教団施設に避難…違うな、監禁されているのを何とかしたい。田中君と榮倉さん、手を貸してくれんか?」


「その…高沢少将…」


「元少将だ。息子の誠一はともかく、南田はワシを慕ってくれて側にいてくれてるだけだ」


「ともかくは酷いな親父。俺は元国防軍空挺部隊隊長だ。よろしくな!」


「政治や国家機関がボサツに飲み込まれて行く中で、マトモだったのは少将だけです!何処までも付いて行きますよ!」


「そりゃ有り難いな。済まんな、話が逸れたがどうだろう力を貸して欲しい」


 高沢は誠一と南田と共にヒロシとレイカに頭を下げた。


「…レイカ、どう思う?」


「信じて良い話と思うよ。後は2人にも聞いた方が良いかな?」


「そうだな。サウスとレディはどう思う?」


「俺達の利害と言うか、行動のついでだから良いんじゃないか?敵意も感じない」


「サウスに同感よ。ヒロシとレイカのやりたい様にやりなさい」


「!?何だ、誰と話している!?」


 誠一が狼狽して、背中から拳銃を抜いた。


「俺とレイカの相棒ですよ。2人とも姿を」


 グニャグニャと黒く、銃にナイフの形でサウスとレディがヒロシとレイカの腕に現れた。


「君達は……国民超人化計画の犠牲者か?」


「計画名は知りませんが、俺もレイカも若い頃に施設でグプ人…異星人の血を若い頃に打たれました。そんな俺達に適応したサウスとレディはパートナーです」


 高沢と誠一、南田はしばらく絶句した。


「その…パートナーを何処で手に入れた…いや、何処で出会ったか聞いても?」


「サウスとは俺が戦火から逃げる時に偶然出会いました。レディはO県の国防軍の基地で半ば救出する様な形ですね」


「O県の…確か盾脇中将が異星人が侵略する前から、ボサツの幹部と会う為に足繁く通っていた場所だな」


「盾脇中将は亡くなったわよ。私をスーツを着た偉そうなヤツと眺めている最中にね」


「な!…本当か!?」


 レディの言葉を補完する様にヒロシはF県からの流れを高沢に話した。


「………そんな訳で、橋本大佐に会っていなければレディとも会わなかったので偶然ですが、この様にレイカのパートナーになっています」


「そ、そうか。それにしても凄まじい戦闘力だな君達は…是非、救出に力を貸して欲しい!」


「俺達も向かうつもりだったので、それは構いませんが…娘さんとお孫さんの救出は急いだ方が良いかもしれません…」


「……田中君が懸念しているのはK県の事かな?」


「!…御存知でしたか…俺はあの光景を目の当たりにしましたから…」


「異星人共が攻めてくる前から、ボサツの黒い噂を耳にしていた。まぁ、私は探り過ぎて大分前に国防軍を追い出された訳だが…今は指を咥えて見ているだけでは無い。ステルスドローンを定期的にここから飛ばして、教団の施設を昼夜監視している。避難民の無事は確認済みだ。今日はログハウスでのんびりして、明日から行動を開始しようじゃないか!」


「分かりました。お世話になります高沢さん」


「誠一君、女性のお客様がいるからお風呂を沸かしてよ?」


「へいへい南田さん。…2人共、さっきは銃を向けて悪かったな。サウスとレディもゆっくりしてくれよ?」


「おう!ありがとうよ誠一」


「お世話になるわね、誠一さん」


「全く…不思議な光景だな…」


 ログハウスで一晩過ごす事となった。

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