第38話 さらば橋本。H県へ
自動で開かないガラス張りのドアを引いて、ヒロシ達は総合病院に入った。
「人の気配は感じないな。あの婆ちゃんの言う通りだな」
「私も感じないわ。ヒロシ、何処を探るのかしら?」
「病院で広い場所と言えば、1階のロビー位だもんな…」
「院長室に行ってみるのはどうだろう?権力者は大抵ボサツと繋がっているのが、私の人生の経験則だ」
「この国はよく異星人が攻めて来るまで運営出来てたよね……」
「返す言葉も無い…」
院長室に入り、鍵の掛かった引き出しをヒロシがこじ開けると、1冊のノートに院長の悔恨の念がギッシリと書き込まれていた。出世の為にボサツに入信した事や経典に書かれた清い事とは全く逆な方向の人生を歩んだ事。最後に患者や市民に半ば強引に不合理な避難をさせて死地に追いやった事を悔いて、自ら命を美しいO県の海で絶つ事を記していた。
「コレは…コレは…殆ど私に当て嵌まる事じゃないか…私は…私も…死んで詫びるべきダビャヒャ!?」
レイカが橋本を殴った。
「橋本さんは私達に会って生きているし、故郷の人もボサツの甘い言葉に惑わされずに生きてるんだよ?だったら出来る事があるでしょ、元国防軍大佐なんだから」
「貴方はレイカから殴られる価値がまだあるって事よ、橋本さん?」
「……世の中がこんなにならないと、自分がやらなければならない事が見えて来ない愚図
でも出来るだろうか?」
「それは橋本さんにしか分かりませんよ」
「……出来ると励ましの言葉を安っぽく貰うより余程響いたよ。そうだな、自分次第だ…
生き残った婆ちゃん達を守ってみせるよ」
結局病院には大した手掛かりは無く、ヒロシ達は学校に戻った。橋本と別れる時が来た。
「…橋本さん、本当に小銃は要らないの?」
「ああ。ここ数年は定期訓練でも触っていなかったからな。拳銃の方がしっくり来るよ」
「そう。頑張って生きてね!」
「レイカさんとえーと…」
「レディよ。レイカに昨日寄生したばかりだから、まぁ良いわ」
「レディさん、次に会う時があるかもしれないから覚えておくよ。ヒロシ君とサウス君、本当に世話になった。ありがとう」
「お互いこんな世の中を生き抜いて、またいつかお会いしましょう」
「またな橋本。元気でな」
「ええ!皆さんまた……」
号泣して頭を下げた橋本に見送られながら、ヒロシ達は学校を後にした。
「何だかんだでO県は色々あったね…橋本さんのキャラも濃かったけど、1番はやっぱりレディに会えた事だね!改めてよろしくね!」
「ええ、よろしくねレイカ。ヒロシとサウスもよろしくね。一緒にサバイバル観光するのを楽しみにしているわ」
「こちらこそお世話になるよレディ」
「よろしくなレディ」
ヒロシ達は夕方に砂浜へ到着。戦闘で死亡した兵士を埋葬して潜水艇に乗り込んだ。
「H県まで普通に潜航して8時間程だな。朝に到着する様に操縦を交代しながら、ゆっくり行こうぜ」
「待ってサウス。私は貴方の記憶や強化した事を覚えさせて貰ったけど、身体が慣れていないわ。最初は私に操縦をさせて」
「確かに慣れは大事だな。任せるレディ」
「後は戦闘もしばらくは反応がサウスより劣るわね。レイカ、しばらくは銃と私を併用する様な形で戦ってくれるかしら?」
「うん了解だよ。あっ、じゃあそれだったらさ……」
「ああ成程…レイカの考えが伝わって来たわよ。ヒロシとサウスを援護するのに良いわね」
「フフッ。でしょ?」
「レイカ、何を思い付いたんだ?」
「レディに小銃へ管を伸ばして貰って、グレネードランチャーの様に球体を撃ってくれれば隙が減るでしょ?後はライフルで射撃をする時に私の身体に管を伸ばして、身体を固定すれば命中精度が上がるね!」
「グレネード…ああ、成程。それはとんでもなく戦力アップだな。戦闘訓練とかを受けて無い俺には出ない発想だな」
「まぁヒロシは超速で行動出来て、周りがスローモーションに見える能力がある。それについこないだまで一般人やってたとは思えない行動力も素晴らしいよな」
「誰かさんが話を聞いてくれて、励ましてくれたお陰だよ」
「正面から、そう言う事を言うな…照れる」
「フフッ。ヒロシ君とサウスは良いコンビだね。レディ、私達も負けない様に頑張ろう!」
「ええ!私達なら必ず良いコンビになれるわレイカ!」
会話を楽しんだり潜水艇の操縦を交代しながら4人は時を過ごし、夕食後程なくしてヒロシとレイカは眠りについた。
「2人共、辛い目にあって来たのに強いわね」
「ああ。コイツ等と一緒に旅をすりゃ俺達もタフになり、生きてる実感が得られるだろうぜ。ドゥメルクじゃなくてサウスとレディとしてな」
「そうね。人間で言う所の自己存在の確立をしないといけないわね」
「既にコイツ等には俺達は人として扱ってくれている…期待に応えてやろうぜ」
「ええ。最高のサバイバル観光にしてみせるわ。ヒロシを超絶愛してるレイカの為にもね…!」
「ヒロシも満更じゃねえから、早く2人が落ち着く場所を見つけるのも俺達の役目かもだが…2人共、旅をしたいが勝ってるからなぁ」
「ウフフ。そこは見守ってあげましょう」
早朝にH県中央の海岸20メートル手前に到着。サウスとレディはそれぞれの相棒を優しく起こした。
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