第37話 橋本の故郷

「盾脇中将が持っていたカードキーだ。御偉方しか入れない場所に入れるから、持っていた方が良い。もう1人からはボサツの信者の証だな。色は金だから、かなり教団でも上の地位にいた人間だな。これも使い道があるだろう」


 橋本は赤いカードキーと菱形に紋様が彫られた、掌サイズのエムブレムをヒロシに渡した。


「俺達では見逃していた物ですね。ありがとう橋本さん」


「少しでも君達の役に立てて何よりだ。遺体はこの家の庭にでも埋めないか?」


 橋本の提案にレイカも頷き、サウスとレディはスコップの形にグニャリと変身。ズババッ!と庭を掘り、あっという間に埋葬した。


「手伝おうと思って提案したんだが…私が1番足手纏いだったな…」


「いえいえ、いつまでも車に置いておく訳にはいきませんから…それに敵とは言え、出来る時は丁重に葬る精神を忘れない様にしないと。所で橋本さんの故郷はここからどれ位ですか?」


「車で2時間程の距離にある田舎だが、本当に連れて行ってくれるのか!?」


「ええ、約束しましたからね。それにグプ人も破壊しに来ない場所なら、まともに避難や生活をしている人を見れるかもしれない…今から出発しましょう」


「ありがとう…ヒロシ君。皆んなにも感謝するよ」


 橋本は深々とヒロシ達に頭を下げた。


「フフッ。似合わないって橋本さん」


 車に全員乗り込み橋本の故郷を目指したが、道路が破壊されている場所や橋が切れた場所等を避けて回り道を繰り返し、到着したのは深夜になった。


「ふぃー…やっと着いたね。ここが橋本さんの故郷?」


「ああ…生きて再び見れるとは…」


「行動は明るくなってからにしようぜ。3人は寝ろ。見張りは俺とレディでやるから」


「ああ甘えさせて貰うよ。サウス、レディ」


「橋本さんは助手席で寝て。私はヒロシ君とくっ付いて寝るからさ」


「……はい」


 朝になって、車をゆっくり走らせると橋本の故郷の全貌が見えた。


「全く破壊されてないな。良かったですね橋本さん」


「ああ!もう何年も帰っていなかったが、変わっていない場所もある…町民は無事に避難したのだろうか?人の気配はまるで無いな」


「あっヒロシ君、掲示板に色々貼っているよ」


 コミュニティセンターの掲示板には誰々が何処に避難したかや連絡先等の夥しい数の貼紙や付箋紙があった。


「ザッと見ると、学校や総合病院に避難しましたってのが多いな。ヒロシ、学校から回るよな?」


「話が早くて助かるよサウス。レイカとレディも良いか?」


「うん。勿論だよ!いいでしょレディ?」


「レイカと私は一心同体よ。聞かなくて良いわ」


「橋本さん、危険を伴うかもしれませんがどうしますか?」


「連れて行ってくれ。君達の指示に従うよ」


 町の中心から車で5分程の距離に学校はあった。


「人の気配を若干名感じる。警戒して中に入ろう」


「橋本さん、私にはレディがいるから武器を渡して…と言うか拳銃を返すよ」


「…ありがとうレイカさん」


 ヒロシ達が正門を開けて校内に入ると、下駄箱の先の階段に老婆がポツンと座っていた。サウスとレディはウニョンと腕に巻き付き擬態した。


「お婆さん大丈夫ですか?」


「…アンタ等も避難者かい?んん…?アンタは橋本さんところの…」


「あ!米屋の婆っちゃん!?そう!俺、透だよ!他の人達はどうしたの!?」


「何とか言う宗教団体が来て国防軍が最初に引き上げ、いつの間にか消防や警察もいなくなったよ。そんで、その宗教が私達がもっと安全な寝床や食事を用意します言うて信じた人間がようけ来たトラックに乗って行ってしもうた…透君も国防軍の人間じゃなかったか?」


「…いや、国防軍は随分前に辞めたんだ…そ、それで皆んなは何処に行ったか知ってるかい?」


「全国にある施設に行く言うとった。細かい場所は知らんよ」


「そうか…婆っちゃん達は食事とかはどうしてるの?」


「周りの畑のモンや井戸水で何とかなっとるよ。ここにゃ子供含めて、50人程しか残ってないからね」


「この先の総合病院も?」


「いんや、アッチには人はおらん。残った人間が自主的に学校に来たからのう」


「お婆さん、教団の連中は何か資料等を残して行きませんでしたか?」


「資料?ああ体育館で説明会をやっとったから、プリントかなんか残っとるかもしれんな」


「ありがとうございます。行ってみよう」


 体育館には沢山の折り畳み椅子が置かれ、その上にはボサツのパンフレット。ステージ前には書き込まれたホワイトボードが放置されていた。


「ボサツで確定だね。この図は西エリア中に避難民を散らばしてるよね」


「俺達が行くH県にも矢印が引かれているな」


「まさか…ヒロシ君が言っていた様にボサツは避難民を…」


「何とも言えませんが、現実にあの光景を見た俺達からすれば可能性は否定出来ません」


「……頼めた義理では無いが、君達が行く先々で救える一般人がいたら救ってやってくれないだろうか?」


「ええ。それは俺達としてもやろうと思っていた事なので」


「……お願いするよ」


「ヒロシ君、お婆ちゃんが病院に人はいない様な事をいっていたけど、どうする?」


「ボサツの手掛かりがあるかもしれないから行ってみよう」


 ヒロシ達は車に乗り込み、総合病院に向かった。

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