第33話 O県の基地
兵士達は結婚式場に入って来なかった。
「無差別に撃って、確認するだけで中には来ないのか…面倒臭い…ヒロシ、イケるか?」
「行かなきゃいけない。だろ?……」
ヒロシはヴァージンロードを挟んで向かいの長椅子に隠れているレイカに外に行くからここを頼むと合図をしてサウスを構えた。心地良い澄んだキーンと聞こえる耳鳴りと共に扉をバーンッ!と開けて外に出た。
次の家屋に射撃しようとしていた兵士達が素早く振り向いた…つもりだったが、超速で動き、周りがスローモーションに見えるヒロシには遅く、ドッドッドッウゥゥゥンッ!と球体を放ったサウスに胸を貫かれて焼け溶けた。
「ヒーローシーおーつーかれ様だな」
「橋本さんに実力を見せれなかったな」
「彼等の遺体を見れば、裏切る気も失せるんじゃないか?それにしても、最初から上手く力を使えたんじゃないか?」
「ああ。確実な理由は分からないが、相手が先に威嚇射撃をしたからスイッチが入り易くなったかもな」
「ヒロシ君、サウス終わった?」
「ああレイカ。橋本さーん!終わりました」
祭壇の棚に被せてあった布の中から、橋本がノソノソと出て来た。
「お、追手はどうなった?」
「倒しました。さぁ行きましょう」
橋本は胸に大穴を開け、焦げた3体の遺体を見て心に強く誓った。
(わ、私は布団かベットの上で安らかに逝きたい!彼等を怒らせない様にしよう…)
幹線道路で車に乗り、浜辺で潜水艇を呼び出した。
「君達はこんな物まで持っているのか…」
「乗って下さい。橋本さんはO県に到着するまで、寝ていても良いですよ」
「有り難い!では遠慮無く……」
橋本は潜水艇の床に寝そべり、一瞬で眠った。
「図太いんだか繊細なんだか…O県まで…2時間弱位だね。ヒロシ君、交代で仮眠しようよ」
「いや、俺が操縦するから2人とも寝ろ。ゆっくり移動して、睡眠時間を確保しよう」
「ありがとうサウス。甘えさせて貰うよ」
「サウスありがとね!ヒロシ君、腕枕して」
「…はいどうぞ」
ヒロシとレイカは操縦席で引っ付いて眠り、サウスは約5時間後に3人を起こした。
「サウスありがとう。映っているのはO県の…
川辺か?」
「おはようヒロシ。そうだ。浜辺や港は定期的に国防軍かボサツと思われる車両が通っていたから、海から川に繋がる場所に来た。こっちの方が監視は緩そうだな」
「流石の判断力だねぇ、サウス。取り敢えず、朝食食べて動こうよ。橋本さん、この辺の地理は分かる?」
「……ああ、分かる。ここから車で20分程の距離に話した基地がある。朝からサウス君が車両を見たと言うなら、お偉方が基地を出入りするから巡回しているかもしれないな。盾脇中将かも…」
「橋本さんは変装した方が良いかもな。陸に上がったら民家で服を拝借しよう」
朝食後にヒロシ達は潜水艇を降りて土手を上がり、点在する民家の1つで橋本は軍服を脱ぎ捨ててジャージにジャケットを羽織り、帽子を目深に被ってスニーカーを履いた。
「合う服があって良かったね橋本さん。基地は丘からちょっとレーダードームが見えている場所でしょ?」
「そうだ。丘全体が基地になっていて、県道から入れる麓から兵士が配置されている場所が3箇所ある。監視が薄いのは海側から雑木林を抜けるルートなんだが…」
「今日に限って、盾脇中将が来ているかもしれないから海側の巡回が多いか…夜に動いた方が良いだろうか…どう思うサウス、レイカ?」
ヒロシが話を振ると同時にゴオッ!と家が揺れる衝撃と騒音を感じ、丘の上の基地に垂直着陸する銀色の航空機が見えた。
「盾脇中将だ…兵士の警戒がより厳重になるぞ…潜入は日を改めた方が…」
「このご時世に良いモンに乗ってるねぇ…橋本さん、盾脇中将がドゥメルクの場所を移動させたりするかな?」
「それは何とも…中将も死にたくない一心で自分が管轄するエリアをグルグル回っているかもしれないし、更に上から命令されてドゥメルクを他の場所に移す様に言われたのかもしれない」
「どっちも一理あるか…基地に行くか行かないかはヒロシ君の決断に任せるよ」
「ヒロシはとっくに行く気だ。だろ?」
「馬鹿な…君達には捕まったが、命を救って貰ったんだ…態々、死にに行かなくても…」
「御心配ありがとうございます橋本さん。俺達は、こんな世でも生き抜いて楽しく生きる事を目標に行動します。レイカにもドゥメルク…サウスの様な存在が必要ですので、保管場所を変更する可能性があるなら、早目に取りに行きますよ。橋本さんはここで息を潜めていて下さい。1日分の食料と水を差し上げます」
「……分かった。こんな時に分かったとしか言えない自分が歯痒いよ」
「心配してくれるだけで充分ですよ。俺達が生きて帰って来たら、橋本さんの故郷に行きましょう」
「ああ。待っているよ」
ヒロシ達は橋本を残し民家をそっと出た。
「どんな作戦で動くのヒロシ君?」
「サウス、港で使った作戦で行こうか?」
「成程な。放つ球体も強化しているし、試すには丁度良いな」
「えっ、何々!?」
ヒロシはレイカに港から、グプ人の旗艦を攻撃した時の事を話した。
「…と言う事は、ここからちょっと見える中将が乗って来た航空機を攻撃して、撃ったポイントから素早く、近場の場所に潜むんだね?」
「ここでやったら、橋本さんが死ぬから海側に行こう」
3人は潜水艇に乗り込んだ。
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