第32話 何故かO県へ

「動くなよ?」


 ヒロシはサウスが変身したナイフ部分で、橋本の手足を縛っていたテープを切った。


「部下を連れてヘリで撤収しろ。その後、アンタは何処へでも逃げるといい。俺達はここで夜を明かす」


「…国防軍やらボサツの後ろ盾を失って、どうやって生きて行けば良いやら…ヒロシ君と言ったか?君の優しさは有り難いが、一般兵士の中にも盾脇中将の息の掛かった者がいてね、どの道撤収した時点で殺される事になるんだ……出来れば…一緒に逃げてくれんか?何処か最寄の潜めそうな住宅街までで良いんだが……」


「えー…橋本さん、マジでカッコ悪いよ?大佐でしょ、一般の兵士位説き伏せられないの?」


「国防軍に数十年在籍していたが、私はずっと事務方で生きて来た…それに君達に捕まり全て知っている事は話したから、今更恥の1つや2つが増えたって構わない。だから…頼む…」


「オッサン、この施設に抜け道とか無いのか?

さっきヒロシが言ったが、俺達は無駄な殺生は好まない。外の兵士を蹴散らして突破するのは簡単だが、出来ればやりたくない。助かりたいなら何か案を出せ」


「………賭けになるが、私を監視している兵は今現場に異星人を探している中にいる。しばらくは帰って来ない筈だ。君達がボサツの関係者だとレーダー監視や連絡係をやっている兵士に紹介して、外に用事があるからと正面から突破する。その時に現場に行った兵士とカチ合わなければ、流血沙汰無しに逃げれると思うがどうだ?」


「はぁ…ここで1泊したかったのに…どうするヒロシ君、サウス?」


「それなりの情報は聞いたし付き合うよ」


「ヒロシがそう言うなら問題無い」


「だってさ。良かったね橋本さん?」


「感謝するよ!…それで、異星人の武器の…サウス君はその…目立つのだが…」


「ああ、問題無い」


 サウスはシュルルと左腕に巻き付き、肌色に擬態した。


「……凄いモノを見たな…早速だが行こうか。助けて貰う身で急かして悪いが…」


 橋本はネクタイを締め直し軍帽をしっかりと被って、身なりを整え先頭を歩いて施設を出た。


「橋本大佐!…後ろの方達は?」


「彼等はボサツの崇高な任務の為にこの施設で仕事をこなしていた方達だ。所用で外に出る事になった。案内は私がするから諸君はこのまま現場の兵士と密に連絡を取り業務に励んでくれ」


「ハッ!」


「では、行きましょう」


 橋本は兵士に敬礼を返すと、足早にヒロシ達を引き連れて施設の門を出た。


「はー…先ずは無事に外に出られた。感謝するよ…その…君達…」


「まだ油断するなよ?この坂を下って、小さな住宅街を現場の兵士と会わない様に迂回するからな」


「わ、分かったよ…サウス…君」


 暗闇の中を慎重に進み、昼にヒロシ達が昼食を食べた結婚式場の中に入り、ランタンを付けて休憩した。橋本は疲労困憊で声も出なかった。


「ほら橋本さん、水だ…ッ…」


 ヒロシから乱暴にペットボトルを取ってガブ飲みした。


「ぶはっ!…はー…はー…ありがとう…」


「ああ。橋本さん、この辺から身を潜められる住宅街が多いがどうする?」


「…O県に連れて行ってくれないだろうか?」


「また急な提案だね橋本さん?私達はH県に行きたいの。何で南下しなきゃいけないか説明して貰える?」


 レイカの冷めた目が橋本の収まりかけた汗を噴き出させた。


「わ、私の故郷なんだが…も、勿論理由はそれだけじゃ無い!サウス君を見て思い出したんだ。異星人の…そのサウス君の様な存在を

特殊容器に入れて保管しているのを!」


「本当に急な話だな。ソイツはドゥメルクって言うんだが生きていたのか?」


「間違い無く生きていた!嫌々、盾脇中将の視察に付いて行き忘れていたが保護液の中で間違い無く蠢いていた!同胞を助けたいんじゃ無いのか!?」


「ああ…そういうモノの見方な。同胞意識は無いんだが、レイカどうする?」


「うんチャンスだね。橋本さんさぁ、その話に嘘や偽りは一切無い?」


「無い!…正直、嘘や欺瞞に満ちた世界を生きて来たが君達に捕まって、命を救って貰い吹っ切れたんだ。それに国防軍やボサツに私の居場所は無いから、君達に嘘を付く必要は皆無だ!」


「最終決断はヒロシ君かな?」


「ああ。ヒロシ、どうする?」


「橋本さん……」


「…はい」


「O県に物資、主に食料を手に入れる場所に心当たりは?」


「!…ある場所を知っている!先程のドゥメルクがいる基地内は補給業務もやっているから、案内出来る!いや出来ます!」


「分かりました。その基地の近くまで案内してくれたら貴方は自由です。それまで行動を共にしましょう…但し、裏切ったら……」


「おっと…ヒロシ、その言いたい事を橋本に見せ付ける機会が来たな。3人の兵士が近付いて来ているな」


「橋本さんの言ってた監視役かな?そんな訳で、橋本さんは祭壇の下にでも隠れていてよ」


「お、お願いします……」


 橋本は四つん這いでカサカサとレイカに言われた通りに隠れに行った。


「レイカは右、ヒロシは左を警戒してくれ。そろそろ来るぞ」


 数秒後にバラララララッ!と小銃の音と同時にガチャンバリンッ!とステンドグラスが割れた。


「当てずっぽうに撃ったな。姿を見せたら倒そうか」


 ヒロシとレイカは冷静に頷いた。




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